家へ

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 「大丈夫かね」  ふと頭の上から声が降ってきた。若くはない、少し歳のいった男のしっとりした声であった。見上げると、ベージュ色のトレンチコートを着た男がこちらを覗き込んでいた。目尻に皺があり、頬が少し()けてはいるが、整った顔つきをしている。 「あっ、はい……大丈夫です」 「どう見ても大丈夫そうじゃないけどねえ」男は白髪混じりの頭を掻きながら、眉間に皺を作った。「質問を変えよう。君は今困っているかね?」  困っている……そう言われれば困っている。現に気持ち悪さで立ち上がれない。だがもう限界だ。これ以上喋ると吐いてしまいそうだ。  小さくコクリと頷く。 「よし分かった。楽にしなさい」  男はそう言うと、しゃがんで背中に手を置いた。  男の手の微かな重みを感じたかと思うと、急に吐き気が無くなった。しかし、それと同時に意識も手放してしまった。
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