義叔父

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 「清一(せいいち)」  目の前の男の声は変に抑揚が無かった。  薄暗い室内。相手の顔ははっきり見えない。男の息遣いは荒い。まるで喘息の人間のような、いやそれ以上の、過呼吸のような息遣いである。 「清一」  もう一度男が僕の名前を呼ぶ。鳥肌が立った。本能が危険だ、と信号を送ってきている。  息を呑み、一歩後ろへ下がる。だが男は途端に体を前に出すと、胸ぐらを掴んで体を床に叩きつけた。凄まじい衝撃で息が一瞬止まる。身体中の骨が悲鳴を上げた。  脳内で大きな鐘が鳴り響いている。どうやら頭を強く打っようだ。起き上がることは出来なかった。  男はそのまま馬乗りになると、床に放り出された両腕を押さえ付けた。あまりの力の強さに身動きが取れない。 「う“っ」  生温かい舌が強引に唇を割って口内へ侵入してきた。それは何とも不愉快だった。舌を噛み切ってやりたい。そう思っても頭がぼんやりして抵抗が出来ない。  嫌な水音が耳の奥まで届く。男の舌は自分のとは比べ物にならないくらい厚く、そして強かった。口内を乱暴にかき回し、何度も舌を吸う。 「嫌だっ」  何とか声を上げると、男は怒ったように唾液を流し込んできた。 「おえっ」  (うめ)いても許してくれなかった。鼻を指で強く(つま)まれる。息が出来ない。死んでしまう。迫る死を感じ、その恐ろしく気持ちの悪い体液を飲むしかなかった。 「嫌だ……()めてくれ……」  男は願いを聞いてはくれなかった。
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