29. 懐かしい味

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「晴彦さんにどうしても確認したくて。晴彦さんにとって友香さんはどういう存在だったんですか?」  晴彦さんは笑顔で答えてくれた。 「前にも言ったけど僕にとって友香さんは幸せを見届けたい人でしかないよ。不幸になる手助けをしちゃったから、幸せになるためにあの時の何倍でも頑張ろうと思ってた。今彼女が幸せかは分からないけど、僕は十分やれることはやったから心残りは無いかな」  そこに嘘はないのかもしれない。だけど本当にそれだけなんだろうかという疑問も残る。 「そこに好きだ……っていう気持ちはなかったんですか?」 「彼女が孤独だったらもしかしたらそれもあったかもしれない。恋心が全く無かったかと言われると分からないけど、少なくとも園田先生と小関くんがいる以上僕がそういう役回りになることはないってことは分かってたよ。彼女の手助けができて満足だし、今の関係性に1ミリの不満も無かった」  清々しい表情で答えた晴彦さんにそれ以上かける言葉は見当たらなかった。あれ以来もちろん会っていない。  このレストラン、友香さんに関係するものなのだろうか。よく分からなかったけど、素直に受け取ることにした。「確か行くなら週末がいいみたいって言ってたかな」そう言われたので、早速洸太と琴美を誘って行ってみることにした。  存在は知っていたけど、価格帯的になかなか足が運べない少し高めのレストランだった。それだけに、どれを食べても美味しい。カルパッチョやバーニャカウダといった馴染みのあるメニューでも、味が格別に美味しかった。  鶏肉のソテーが運ばれてくると同時に横にパンが置かれた。こういうところで食べるパンが何気に好きだったりするんだよな……そんなことを話しながら、ロールパンをちぎって口に運ぶ。  その瞬間、なぜだか懐かしさを感じた。思い出す顔がある。 「これ、お肉も美味しいけどパンも美味しいね」  琴美の言葉に我に返る。確か、晴彦さんは友香さんの店でバイトしているときにここによくパンを届けていた。まさか……  堪らず近くにいる店員さんを呼び止め、「このパンはここで作ってるものなんですか?」と聞いてみた。その店員さんはよく分からないらしく、オーナー呼んできますね、と言っていなくなった。 「え? 確かにこのパン美味しいけど、何でそんなこと聞くの?」  不思議そうに見つめる琴美をよそに、俺はオーナーが来るのを待った。
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