00. 序章

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 家族の元から逃げ出した私は居場所を失い、気の赴くままに1人ドイツを放浪していたんだけど、帰国するなり叔母さんに呼び出された。叔母さんは、私が小さい頃はお正月とか法事といったような親族のイベントで何度か顔を合わせたことはあって、年齢も10歳ほど離れている割には仲良くさせてもらっていた。  だけど叔母さんが社会人になった頃から顔を合わせる機会もなくなっていき、ここ数年は叔母さんが何をしているかも知らなかった。だから声をかけられたことには正直驚いた。  叔母さんは、私がドイツでパン作りの修行をしていたことを聞きつけたらしく、私にパン屋をやらないかととある店舗を託してくれた。と言ってもその店舗はまだパン屋の形は成していなくて、全く違う業種の店舗の居抜き直後の状態だったんだけど。ここをパン屋にしてくれるならどんな店にするかは全て任せる、そう言ってくれていた。  ありがたい話ではあったものの突然すぎることもあって正直不安しか無くて、一度は断ったんだけど叔母さんはなかなか諦めてくれなかった。そしてそのしつこさに私の方が根負けしてしまったのだ。  そうして引き受けたのはいいものの、開店準備はなかなかに大変だった。なにしろ店を持つなんて初めてのことなのだ。今までとは環境も全く違うし、何より自分で何もかもをやらなくてはいけない。契約やら何やらの面倒な手続きに疲れ果てた結果、開店直前だというのに店舗の整備を後回しにしてしまい、商品の検討とかそんなことばかりをしていた。  気がつけば開店2日前。いよいよ追い込まれた私は足りなくなった食材を補充してから店の開店準備をしようと買い出しに出かけることにした。
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