彼女のポーチドエッグ

4/8
前へ
/8ページ
次へ
*  僕より年上であろう女性の店員さんは、注文をすんなり受け付けてくれた。「こちら失礼しますね」  とタブレットに店員さんがメニュー番号を入力して送信してくれた。公開されているメニューではないので、直接入力してくれたようだ。 「すごっ。裏技やってるみたい」  涼花は目を輝かせながら言った。高校生の頃のバイト経験で彼女を喜ばせることができるとは思わず、僕もなんだか嬉しかった。 「ポーチドエッグって、久しぶりだなぁ。小学生以来かも?」 「そんなに?」 「晃樹くんはしょっちゅう食べたりするの?」 「いや、バイトで何回か練習したり、実際に注文を受けて作ったりしたけど。実家で出たことはないかも。涼花は?」 「私は――」 「お待たせしました」  僕と涼花の会話が盛り上がっていたところに、さっきの女性店員がやってきた。 「こちらブレックファーストプレートです」  フレンチトーストとサラダが乗ったプレートが僕の前に置かれた。 「こちらエッグモーニングプレートです」  そして涼花の前に、卵をこちらの希望どおりに調理してくれるプレートが置かれた。サラダの横にこんがりと焼かれたベーコンが2枚敷かれていて、その上に白いドーム状で包まれた卵が乗っていた。注文したとおりポーチドエッグだった。  涼花がどんな顔をするのかなぁとその表情を窺ってみた。するとなぜか涼花の表情が固まっていた。この間、プロ野球の贔屓チームがサヨナラ満塁本塁打で負けてしまったときのような表情だった。  そんな表情に気づくことはなく「ごゆっくりどうぞ」と店員は去っていった。 「涼花……? どうしたの?」 「晃樹くん……」 「ん? なに? どうしたの?」 「これって、ポーチドエッグ……?」  目の前にある白いドーム状のものを白い指先で差しながら涼花は言った。  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加