彼女のポーチドエッグ

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 沸騰したお湯に酢と塩を入れたらぐるぐると混ぜて渦を作る。そこに卵を落とす。回しすぎないように気をつけて、2,3分茹でたら網で取り出す。それがポーチドエッグの作り方だ。  味の加減だったり、茹でるときに蓋をして蒸すとか細かいバリエーション違いのレシピはたくさんあるだろうけど、完成形としては、いま涼花の目の前にあるのが一般的なポーチドエッグだと僕は思っている。  決して下手ではないし、崩れてもいない。むしろ、キレイに作られていると僕は思う。  しかし、涼花にとっては、これはポーチドエッグではないようだ。 「うん、これがポーチドエッグだと僕は思うよ」 「え、そうなの? あれぇ……? 本当に?」  涼花は腕組みをして首を左に捻った。そして目を閉じ「んー」と唸り始めた。どこか遠い記憶でも探っているかのようだった。 「どうしたの? なんか考えこんでるみたいだけど」 「何をどこから話せば……いいんだろう。そう、私が知ってるポーチドエッグってこんなふわふわのじゃなかったんだ」 「……それは、涼花の知ってるポーチドエッグと見た目が違うってこと?」 「そう……だね。なんていうんだろ……私の知ってるのは、肉巻きになってて、あ、中はゆで卵なの。で、醤油で煮たような……やつだった」  僕の頭の中では「肉巻き」というキーワードで、なぜだかアスパラのベーコン巻きが浮かんでいた。
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