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「えーっと、涼花の言ってるそのポーチドエッグって、どこで食べたの?」
「どこで……ていうか、おばあちゃんが作ってくれたものだったの」
「あー、おばあちゃんが」
「小さいときに、私と妹で、テレビか何かで見て『ポーチドエッグを作って』ってお願いしたんだ。そしたら肉巻きのそれが出てきたから……だから、私と妹にはあれこそがポーチドエッグだったの」
小さい頃の涼花は、完成形を知らずにおばあちゃんにお願いをして、おばあちゃんもまた完成形をわからずにおばあちゃんなりに作ってくれたということだろうか。
「ふぅん。じゃあそれが涼花の実家のポーチドエッグだったんだね」
「私が思い込んでただけで世の中的には違ってたみたいだね。そっか、これがポーチドエッグ……。ずっと知らなかったなぁ」
そう言いながらも、涼花はフォークを手に取って、ポーチドエッグの中央あたりから二つに割るように切り込みを入れた。半熟の黄身が流れ出て、ベーコンの上を伝わっていく。
白身と黄身が混ざるように少し切り取ると涼花はそれを口へと運んだ。
「うん、これもおいしいね。これが本当のポーチドエッグなんだね」
涼花は微笑んだ。しかし、その笑顔がどこかぎこちないものに思えて、僕はうまく笑い返すことができなかった。
「でも……」
「うん?」
「ここで食べられないってわかったら、おばあちゃんのポーチドエッグを食べてみたくなったなぁ……」
「今度実家に帰ってときにでも、またお願いしてみたら? 東京にはなかったとか言ってさ」
「うーん……それがね」
「それが?」
「おばあちゃんは、私が高校生の頃に亡くなってるんだ……」
「あ……」
まずいことを聞いてしまったと思った僕を察してくれたのか、僕が謝るよりも先に、彼女は微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと首を横に振った。貴方は何も悪くないとでも言うように。
「さ、食べよー。お腹空いたし」
涼花に気を遣わせたことが僕には気まずくて大きな窓の向こうを僕は見た。陽はすっかり登っていて、さっきよりも通りを歩く人が多くなっていた。
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