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玄関のチャイムが鳴った。
僕はインターホン越しに涼花が映っていることを確かめると「鍵開いてるから入っていいよ」と言った。
玄関のドアが開く。夕陽のせいで逆光だけどシルエットでわかる涼花が入ってきた。
大学の講義が終わったらウチにおいでよ、と僕が誘ったのだった。
僕の住むワンルームアパートに涼花が来るのはこれが初めてではない。もう何度も来てくれているので、涼花は特に何も疑わずに来てくれた。
「ごはん作ってたの?」
「うん。今日はちょっと作ってみた」
「へぇー、何を?」
洗面所で手を洗った涼花が、まな板を置くスペースにも困る小さなキッチンに立つ僕の手元を覗き込む。
「え?」
僕が涼花の顔を見ると、またサヨナラ満塁本塁打を打たれた場面を見たときのように表情が固まっていた。
「あっちで座っててよ」
「ちょっと待って。なんで? え? 嘘? あれ?」
「わかりやすいぐらいに驚いてくれるなぁ」
僕は涼花の背中を押して、部屋へと追いやる
部屋の真ん中に小さなテーブルがあって、そこに既にごはんと味噌汁と手抜きでスーパーで買った割引になっていたおかずがいくつか並んでいる。今日はメインの料理のために他は作っていない(コンロが1つしかないので何種も作ることができない!)。
部屋の中に僕に押し出されても涼花は僕の方を見ていた。いつもなら荷物をその辺に置いて座ってくれるのに。
「はい、今日の夜ごはんはポーチドエッグです」
そう告げて、僕は肉巻きのゆで卵を乗せたお皿をテーブルの中央に置いた。添え物のサラダは単にレタスとミニトマトだけだけど。
「えええええ」
涼花は大きく口を開いて驚いてくれた。僕は笑みを抑えることができなかった。
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