第二章

2/10
前へ
/107ページ
次へ
 それは、ジルベルトがサニエラにエレオノーラの調査依頼をしてから三日後のことだった。 「団長。先日頼まれていた調査の結果を報告いたします」  数枚の用紙を手にしたサニエラがジルベルトの執務室へとやって来た。ブラウンの床を踏みしめながら、サニエラはジルベルトの執務席の前に立つ。  ジルベルトはサニエラの手の中を二度見した。用紙が数枚。数十枚ではなくたったの数枚である。  だいたいこの辺の身上調査書というのは、一年につき一枚でまとめてくるのが平均的である。だが、数枚。ということは、実は彼女は十歳にも満たない少女ということか。いやいや、そんなことは無い。触った時にはそれなりに成熟した女性だった、というところまでジルベルトは思い出し、かっと頬と下腹部に熱が溜まるような感覚に襲われた。  サニエラに動揺がばれないように咳払いをしてみた。  そんなジルベルトに冷たい視線を向けたサニエラは、淡々と報告を始める。 「エレオノーラ・フランシア嬢ですが。年は今年十八歳になったところです。むしろ、なったばかりです。昨年、学院を卒業されているようですが、どうやら学院に通っていたわけではなく、自宅で学び、試験を受けて卒業されたようです。つまり、学院に通わず学院を卒業したという、非常に優秀な生徒でもありますし、非常に規格外な対応を受けていた生徒でもあります。特に外国語については、非常に高い成績を残しておりました。また社交界についてはデビューしたものの、身体が弱いという理由から一切参加しておりません。従いまして、エレオノーラ嬢の素顔は誰も覚えていない、もしくは知らない、ということになります」  顔が知られていない令嬢。家族から隠されている娘。  サニエラの報告を受けたジルベルトが、エレオノーラに抱いた第一印象である。  謎があるほど興味を持ってしまうのはなぜなのか。  だが、彼女は確実にあの場にいたのだ。 「いや。彼女は第零騎士団の所属のはずだが」  サニエラの報告を黙って聞いていたジルベルトだが、彼の報告がジルベルトの欲しい肝心の情報ではなかったため、つい口を挟んでしまった。 「ああ、団長が知りたいのはやはりそちらの方でしたか。……以上が、彼女の表向きの調査結果です。第零騎士団の方は裏向きの調査結果になります」  この裏向きの調査って、けっこう大変なんですよね、とサニエラは呟いた。  ジルベルトは重厚な執務席の机の上に右肘をつき、その手の甲の上に顎を乗せた。そもそも裏向きの調査って何だ、と思いながらも、サニエラに尋ねるようなことはしない。この部下は、扱い方を間違えると反撃をしてくるからだ。
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加