第二章

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   ◇◆◇◆  その日の夜。つまり、ジルベルトがサニエラから裏向きの調査結果を受け取っていた日の夜のこと。  フランシア子爵家の談話室には総勢たるメンバーが揃っていた。エレオノーラの両親の他に、一番上の兄ダニエル。そして、二番目の兄ドミニクと三番目の兄のアルフレド。そのメンバーに囲まれているのが、エレオノーラ。  もう、このメンバーに囲まれたら縮こまるしかないエレオノーラ。可哀そうなエレオノーラ、とエレオノーラ自身もそう思っていた。 「それでダニエル。リガウン侯爵の話は本当か」  エレオノーラの父であるフランシア子爵がゆっくりと口を開き、一番上の息子に尋ねた。 「はい。今のところ、本当だと思われます。本日、次の休暇に挨拶に来たいということで予定の確認がありました。後日、正式に使いが来るものと思われます」  ふむう、とフランシア子爵は唸る。フランシア子爵家にとっては願ってもいない話である。本来であれば諸手を挙げて喜びたいところ。だが、エレオノーラは第零騎士団諜報部、さらに言うならば潜入班。エレオノーラの結婚について問題があるとすれば、それしかない。  このフランシア子爵家は代々第零騎士団を勤めあげる家系である。父であるフランシア子爵は元諜報部部長、今はその座を長男ダニエルに譲っている。母であるフランシア子爵夫人は広報部に所属していた。  二人の出会いは第零騎士団。結婚と同時に退団したのが夫人の方だ。次男のドミニクは母と同じく広報部門に所属し、三男のアルフレドは情報部門に所属している。第零騎士団にフランシア子爵家あり、と言っても過言ではなかった。  実は、フランシア子爵はエレオノーラを第零騎士団に入団させる気はなかった。普通の娘として普通に結婚して、普通に子を授かって、普通に暮らして欲しいという願いがあった。  だがこのエレオノーラ。なぜか昔から変装が好きで、さらに得意であった。それに目をつけてしまったのが父親であるフランシア子爵。  そのためエレオノーラは変装しては、父の仕事のためにいろんなところに潜入していた。  けして、フランシア子爵が強要したわけではない。彼女は自主的に変装していたのだ。それをうまく利用しただけにすぎない。例えば、学院に通う男子学生、花屋の娘、パン屋の看板娘、図書館の常連等、幼い頃の変装といえばそんなもんである。そんなもんであっても、騎士団にとっては情報収集のためには役立つものでもあった。  その結果。今では、第零騎士団にはいなくてはならない存在にまでなっている。
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