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それでもエレオノーラは怯まない。必死で彼が誰であるかを検討する。
そして彼女の脳内データベースを検索した結果、それに該当する人物として第一騎士団の団長であるジルベルト・リガウンがヒットした。
「おい、レオン。大丈夫か? って何をやっているんだ、お前たちは」
その声はエレオノーラの上官かつ兄であるダニエル・フランシアのものだった。なかなか姿を現さないエレオノーラを心配したのだろう。もしかしたら任務失敗と思ったのかもしれない。
ダニエルはエレオノーラの兄だけあって、見目はもちろん彼女と似ている。きらきらと宝石のように輝く金色の髪と碧眼はこの兄妹の特徴でもある。ダニエルは金色の髪を短く切り揃えていた。男装しているエレオノーラと同じような髪型だ。
エレオノーラは押し倒されているため起き上がることはできなかった。顔だけをゆっくりと傾け、上官である兄に助けを求める。
(お兄さま……。助けて……)
だが、エレオノーラの心の声は、兄には届いていない様子。
なぜならダニエルは見てはいけないものを見てしまった、という表情をしていたからだ。言葉にしなくてもそう言いたいのがわかるくらいの表情。そしてダニエルはわざとらしく咳払いをした。
「リガウン団長、できれば私の部下を解放していただけると非常に助かります」
その声に驚いたのか、ジルベルトの左手がもみっと動いた。無意識なのか、わざとなのか、問いただしたいところだが、今もとエレオノーラの右胸にのっている彼の手が、もみもみと動いている。
だが、そんなジルベルトも顔だけをダニエルに向けると、やっとその手をどけてエレオノーラを解放した。
「レオン、悪いが三階の東階段から仕掛けてくれ。行けるか? 残りは第一が押さえているようだ」
ダニエルも冷静にエレオノーラに命令をくだす。
「承知いたしました」
今まで押し倒されていましたという事実が無かったかのように、さっきの事故も無かったかのように、エレオノーラはすぐにその命令に従う。ただ、少し乱れてしまった衣服を直す。それが終わるとさっと風のように駆け出した。
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