第二章

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 そんな昨日の流れから、今日の昼食をジルベルトと一緒にとることになったダニエルである。このように他の騎士団と会食をする場合は、広報部を通して連絡をいれるのが一般的だ。ダニエルは、広報部のドミニクにジルベルトの予定を聞くように依頼した。すると、ドミニクを介してジルベルトからは快い返事が来たため「本日の昼食を一緒に」という流れになる。  ドミニクから「ダニエルが相談したいことがあるようだ」とジルベルトに伝えてもらったところ、ついでにジルベルトも「ダニエルに聞きたいことがある」という返事までもらってしまった。  広報部のドミニクが手配した食堂内の個室。ここにはダニエルとジルベルトの二人しかいない。 「フランシア殿、それで話とは何だろうか」 「妹のことです」  前菜をフォークでつつきながら、ダニエルが言った。 「何か、不都合でも?」  ジルベルトは眉根を寄せた。たったそれだけのことであるのに、ジルベルトの顔には凄みが増す。ダニエルだから耐えることができたが、何も知らぬ一般騎士であれば「ひっ」と変な声をあげていたに違いない。 「いえ。妹がリガウン団長の好みの女性のタイプを気にしておりまして」  ダニエルはそれを口にしたが、なぜか恥ずかしいとさえ思えてきた。これでは妹の縁談を取り持つ、おせっかいな兄ではないか、と。だが、とりもっているのは事実。ジルベルトとエレオノーラがお互いに伝えあいたいことを、二人はダニエルを介して伝えているのだ。  そんな思いをジルベルトに悟られないように、ダニエルはそっと小声で続ける。この部屋に、他には誰もいないはずなのに、それでも小声にしなければいけない気がしていたのだ。 「リガウン団長はどのような女性が好きでしょうか」  ふむ、とジルベルトはフォークを運んでいた手を止めた。彼のことだから真面目に考えているようだ。表情はひくりとも変わらない。ダニエルがこのような質問を受けたら、動揺して目を大きく見開くことくらいはする。 「あまり、そのようなことは考えたことがなかったな」  結婚に興味が無いというのもあながち嘘ではなかったのだろう、と推測する。むしろ、女性に興味が無かったのではないだろうか。だからと言って、男性と噂があったわけでもない。  とにかく他人を寄せ付けないのだ。孤高、という表現が似合う男かもしれない。それに、顔もやや怖い。
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