第一章

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 窃盗団の大半は第一騎士団のほうで拘束したようだが、肝心の親玉を取り逃がしたらしい。そこで今、ダニエルはエレオノーラをその親玉に差し向けるため、彼女を探していた。この酒場の男性店員としてのエレオノーラであれば相手も油断するだろうという考えによるものだ。 「フランシア殿」  ダニエルがエレオノーラの後を追うためにその場を離れようとしたとき、ジルベルトの声が背中にかけられた。ダニエルは思わず振り返る。  目の前のジルベルトは、相変わらずいいガタイをしているし、オールバックにしている黒い髪が彼の存在感を強調している。まさしく団長と、その言葉が似合う男だ。これほど団長が似合う人物もいないだろう。 「後日、貴殿の屋敷に伺ってもよいだろうか」 「何か。あれが失礼なことを?」  ダニエルは、自分がいない間にエレオノーラがジルベルトに無礼を働いてしまったのかと思ったからだ。だからつい、顔を曇らせてしまう。 「いや、そうではない。ただ責任を取らせていただきたい」 「何の?」  ダニエルも思わず素が出てしまった。 「貴殿の妹を、妻に娶りたい」  ダニエルはそのジルベルトの言葉で、思わず口が重力に負けてしまい、つい、ポカンと開いてしまった。空耳かと思って目の前の彼に視線を向けるが、彼が真面目な顔をしているため、きっと冗談でも空耳でも無いのだろう。 「承知しました。妹に伝えておきます」  そのように言葉を紡ぎ出すのが、ダニエルにとって精いっぱいの行動であった。  だが、すぐさま今の件を頭から追い払う。何しろ他にやるべきことがあるのだ。まずは、あの窃盗犯の親玉を捕まえねばならない。 「では、任務がありますので」  ジルベルトも同じ任務に携わっているにも関わらず、ダニエルはそんなことを言ってその場を去った。それくらい、ダニエルの頭は混乱していたのだ。自分でも気づかぬうちに。
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