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窃盗団の大半は第一騎士団のほうで拘束したようだが、肝心の親玉を取り逃がしたらしい。そこで今、ダニエルはエレオノーラをその親玉に差し向けるため、彼女を探していた。この酒場の男性店員としてのエレオノーラであれば相手も油断するだろうという考えによるものだ。
「フランシア殿」
ダニエルがエレオノーラの後を追うためにその場を離れようとしたとき、ジルベルトの声が背中にかけられた。ダニエルは思わず振り返る。
目の前のジルベルトは、相変わらずいいガタイをしているし、オールバックにしている黒い髪が彼の存在感を強調している。まさしく団長と、その言葉が似合う男だ。これほど団長が似合う人物もいないだろう。
「後日、貴殿の屋敷に伺ってもよいだろうか」
「何か。あれが失礼なことを?」
ダニエルは、自分がいない間にエレオノーラがジルベルトに無礼を働いてしまったのかと思ったからだ。だからつい、顔を曇らせてしまう。
「いや、そうではない。ただ責任を取らせていただきたい」
「何の?」
ダニエルも思わず素が出てしまった。
「貴殿の妹を、妻に娶りたい」
ダニエルはそのジルベルトの言葉で、思わず口が重力に負けてしまい、つい、ポカンと開いてしまった。空耳かと思って目の前の彼に視線を向けるが、彼が真面目な顔をしているため、きっと冗談でも空耳でも無いのだろう。
「承知しました。妹に伝えておきます」
そのように言葉を紡ぎ出すのが、ダニエルにとって精いっぱいの行動であった。
だが、すぐさま今の件を頭から追い払う。何しろ他にやるべきことがあるのだ。まずは、あの窃盗犯の親玉を捕まえねばならない。
「では、任務がありますので」
ジルベルトも同じ任務に携わっているにも関わらず、ダニエルはそんなことを言ってその場を去った。それくらい、ダニエルの頭は混乱していたのだ。自分でも気づかぬうちに。
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