第一章

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  ◇◆◇◆  任務を終えたエレオノーラは、兄のダニエルよりも一足お先に屋敷へと戻っていた。 「あぁ、極楽だわ。この任務後のマッサージがたまわないのよね」  侍女のパメラに全身マッサージを頼み、揉まれているところだ。 (今日の潜入捜査も大成功、よね……)  ダニエルは第零騎士団の団長と騎士団の総帥への報告があるため、王城へと向かった。潜入班のただの班員であるエレオノーラは、そのまま屋敷へと直帰することができた。 「疲れたわぁ」と言って歩きながらタキシードを脱ぎ、その後ろから侍女のパメラが脱いだ服を拾ってついてくる。そして自室に入ったころには下着姿、という恐ろしい早脱ぎ術を披露していた。さらに侍女であるパメラに「マッサージをお願い」とまで言ってしまう始末。 「お嬢様。今日は誰もおりませんからよかったのですが、せめて衣装を脱ぐのは部屋に戻ってからにしてください」 「わかっているわよ。今日は誰もいないからそうしただけよ」  自室の天蓋付きの寝台で俯せになりながらも、エレオノーラはぷぅっと唇を尖らせた。  この彼女が先ほどの男性店員に化けたエレオノーラと同一人物であると誰が思うだろうか。  エレオノーラの髪は、金色に輝き緩やかに波を打っている。体つきもそれなりにスレンダーで、出ているところも年相応に、いやそれ以上に出ていた。黙っていれば女神のように美しい、と表現してくれるのは妹が大好きな兄たちだ。それはまるで豊穣の女神のようである、と。  だが先ほどの変装はどこからどう見ても高級酒場の男性店員だった。出ているところもうまく隠し、長い髪もうまく隠し。どこからどう見ても男だった。声色ももちろん女性のものとは思えない程であった。 「本当にお嬢様の変装には、毎回驚かされます。外見はもちろんですが、声色なども変わっていて、私でさえも見分けがつきません」  エレオノーラのふくらはぎを揉みながらパメラは言った。 「あら、それは演じる者にとって最高の誉め言葉ね」  エレオノーラは変装のことを『演じる』と表現する。それは昔取った杵柄に関係するものだ。その昔とはエレオノーラがエレオノーラとして生を受ける前の話。前世なのかそれよりも前世なのか、とにかく遥か昔の記憶によるもの。
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