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それは彼女が、地球の日本という国の女子高生と呼ばれる頃の記憶。その女子高生は演劇部だった。某歌劇団を目指していたけれど、見事に惨敗。それでも高校の演劇部ではさまざまな役を演じることができた。その後も劇団に入り、役者としての一生を終えた。
そのとき、役になりきるときに流行ったのが、その役の『仮面をつける』という表現だ。だからエレオノーラは今でも潜入捜査のときには『仮面をつける』。
と、そんな大昔の記憶を掘り起こしながら、パメラに揉み揉みとされていると、気持ちがよくてついつい意識を失ってしまいそうになる。
「お嬢様。眠ってしまわれてもかまいませんよ」
パメラが優しすぎるので、幾度となく意識を手放しそうになった。意識を失いかけた四度目のときだった。勢いよく部屋に入ってきた人物の音で、全身がビクリと震えてしまったのは。
ガチャ――。
この寝入りばなに現実に引き戻されてしまうと、とても悔しい気持ちがするのはなぜだろう。
「ダニエル様。いくら御兄妹とは言え、せめてノックをお願いいたします」
パメラが両手をお腹の前で揃えて、ペコリと頭を下げた。だが、彼女の言い分は間違ってはいない。エレオノーラでさえもそう思うのだから。
「たたたたたたたた、たいへんだ」
兄が壊れた、とエレオノーラは思った。下着姿ではあるけれど、ゆっくりと起き上がる。
「どうかなさいましたか? ダンお兄さま」
「どうもこうもない。だが、お前のその恰好は目のやり場に困る。それでは大変ではなく変態になるからやめておけ」
「いきなり人の部屋に入ってきて、それは失礼ではありませんか」
パメラが黙ってガウンを羽織らせようとしたので、エレオノーラはそれに従う。
「これでよろしいかしら?」
「それならまだマシだ」
ダニエルはずかずかとエレオノーラお気に入りのローズミスト色のソファに近づいてきて座ると、そこに肩を広げて限界まで寄りかかった。天井を仰いでいる。
「パメラ、お兄さまにお茶を」
ガウンを羽織ったエレオノーラはベッドからおりて、兄の向かい側のソファにゆったりと腰を落ち着けた。
「それで、何が大変なのですか?」
エレオノーラは落ち着きを払った声で尋ねた。
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