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「それが今から5年前のことですが、今は何をやられてるんですか?」
記者の質問に、当時学生だった男はハキハキとした口調で答えた。
「今は政府直属の機関で電子工学を研究しています」
「5年前は普通の学生さんだったんですよね?」
「ええ。成績も中の下くらいの貧乏学生でした」
「それがどうしていきなり政府直属の電子工学の研究員に?」
「レポート作成のために大学に行ったのですが、ふと突然、何かが降りてきたと言いますか、非常にいい出来の論文が書けまして。それが大学内のすべての教授の目に止まったみたいなんです」
「当時開発中だった医療用ナノマシンの欠点と改良点を書き連ねたレポートですよね」
「そうです。それが僕の人生の分岐点でした」
「今では多くの医療用ナノマシンを開発し、日本のみならず世界中の人々を救ってる救世主として崇められていらっしゃいますが、今のお気持ちは?」
「ありがたいですね。僕が崇められているということではなくて、僕の作ったナノマシンで多くの人々が救われているという事実が」
「今やノーベル賞候補の“たまご”とも噂されてますが?」
「ははは、僕はノーベル賞よりも多くの人々を救いたいと思っています」
笑いながらも元学生は思う。
あの「たまご」はもしかしたら秘めた才能を開花させるための装置だったのではないかと。
才能がありながらも埋もれている人物を見つけ出すための政府の施策だったのではないかと。
殻となった「たまご」はそのまま消失してしまったため、今となってはわからない。
しかし元学生はそう確信していた。
そして。
彼が発明したことで得られた莫大な利益は、日本政府を通じて謎の研究機関に届けられていた。
その謎の組織は、現代科学では決して作ることのできない技術を持ち、世界を裏で操っているとされている。
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