たまご

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 そんな中、一人暮らしをしていた貧乏学生が孵化に成功した。  特別なにかしたわけではない。  強いて言うなれば、数日前から高熱で寝込んでいたくらいだ。  幸いにも数日で熱は下がり食欲も出るくらい回復したものの、その際枕元に置いていた「たまご」が割れていた。  学生は叫びそうになるほど驚いたが、すぐに周囲を確認した。 「たまご」が孵化したのなら、中の「なにか」がすぐ近くにいるはずだ。  しかし、「たまご」は殻だけで中の「なにか」の気配はまったく感じられなかった。  殻の中身も乾燥しており、中に何かが入っていた形跡もない。  学生は瞬時に「割ってしまった!」と思ったが、そもそも割ろうとしても割れない「たまご」なのでその考えはすぐに否定した。  ではいったいこの「たまご」の中身はどこへ行ったのか。  学生は部屋の中をくまなく探したが、何も見つからなかった。  これは政府に言った方がいいのだろうか。  国民全員に送っているということは、何か秘密のある「たまご」なのだろう。  孵化させたものには懸賞金1000万円を与えるとも言っている。  しかし学生は考え込んだ。  これはただ「たまご」が割れただけで孵化したわけではない。  孵化ということは何かが生まれたわけで、現時点で何かが生まれた気配はない。  第一、つい先日「たまご」を孵化させたと言って捕まった男がいたではないか。下手をすれば自分も疑われて捕まってしまう。  学生は気を取り直してその日はレポート作成のために大学へ向かった。
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