1 モデル海斗

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1 モデル海斗

海斗は、イギリスで老舗宝石ブランドの専属モデルをしていた。 もともとは日本で生活をしていた生粋の日本人だ。イギリスに来たばかりの頃は英語を全く使えなかったが、こちらの生活もだいぶ慣れ、大学生活と同時にモデルの仕事を始めたらそれが成功した。今では一つの企業の仕事だけで生計を立てられるほどになっていた。 海斗には、高校生の時に家にいられなくなる事情ができた。そこで、大学進学を機に単身イギリスに来たのだった。もう四年も日本には帰っていない。いや、仕事で訪れたことはあるが、実家には帰っていない。 「kai(カイ)、そろそろ休憩にするよ」 「オッケー。僕ちょっと裏で寝てきていい?」 「開始は一時間後だから、あとで起こしに行くよ。ゆっくり休みな、どうせ昨夜もお盛んだったんだろう?」 「うん。昨日の人、凄い性欲で。さすがの僕もヘトヘトだよ」 そんないつもどおりの会話をカメラマンと繰り広げ、海斗はスタジオを後にした。昨夜の相手はセフレのひとり、モデル仲間のアルファだった。今日の仕事はオメガとしての魅力を見せなければいけなかったので、海斗は仕方なくアルファと寝た。アルファと寝た翌日は絶妙に色気が出ると、以前カメラマンに言われてからそうしている。 海斗はkai(カイ)というモデル名で仕事をしていた。 周りからはカメレオンモデルと言われ、フィルター越しなら匂いもないのでどんな性別にも変化できる。もともと海斗の顔は綺麗と言われる部類で、アジア人特有の若さと色気がある。この顔のせいで日本では散々な目にあったが、それはもう忘れることにした。 アルファとも見られるような長身できつい雰囲気も、オメガにも受け取られるような魅惑の色気も、そして今時の若者らしい等身大の自分を出せるベータもすべてを演じられる。とはいっても、ベータは演じてない海斗自身だったが、海斗のことを知らない人は簡単にバース性を騙されるだろう。実際にモデルとしてのkai(カイ)しかしらないフィルター越しに見る人は、海斗の性別を知らない。 バース性不明のアジア人モデル。 そういう呼び名が海斗にはついて回った。モデル会社の社長もその線で売れると言い、海斗の性別はスタッフや近しい人以外には秘密として扱われるようになった。 モデルや俳優は仕事に影響がでないよう、アルファもオメガも普段から抑制剤を使用している人がほとんどなので、海斗からフェロモンが感知できないからと「あいつはベータ」だ、とは思われない。だが海斗と体の関係を持った相手だけには、オメガではないということはわかってしまう。それは当たり前のことだった。オメガと違って、ベータの海斗の後ろは自然に濡れることはないからだ。 オメガではないなら、ベータかアルファだが、それでも相手にはそこまでは気づかれない。海斗は、モデルとして大成功している優秀な部類に入るからだ。アルファを組み敷いているという優越感を覚えるベータもいた。もしくはベータと思って海斗をいたぶるアルファもいた。 海斗は、体さえ満足したらそれでいい、それだけのために体を交える相手を選んできただけだった。 二度と恋なんてしない、そう誓って。
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