2 出会い

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2 出会い

今日は「ラノキリア」という、海斗がメインモデルを務めるジュエリーブランドの新作撮影会。 今日の海斗は全てのバースをこなさなければいけない。ラノキリアが連れてくるアルファは時間がその日しか取れなかったらしく、一日で全ての撮影をする運びとなった。 モデル経験のないアルファだが、ラノキリアの社長が彼を気に入っていて、ぜひとも海斗とのツーショットを新作で撮りたいと意気込んだ。 ラノキリア社長のビリーはそういうところがあるが、海斗は嫌いじゃなかった。海斗もここのモデルに抜擢されたのはビリーに気に入られたから。ビリーはファッション性やモデルとしての実績や技術力は全く見ない。自分のブランドに合うか合わないか、それだけ。技術は後でつければいいが、持って生まれたモノは後からは付かない。それがビリーの考えだった。 だからこそ、ぽっと出の海斗がイギリスで有名な老舗ブランドのトップモデルを飾れている。 そして連れてきたアルファは、アジア人だろうか。イギリス本国出身以外のモデルは海斗だけだったので、初めてそのアルファを見た時、海斗は驚いた。 「ハイ! kai(カイ)今日も美しいね」 「ビリー! ありがとう。久しぶりだね」 ビリーはイギリスの紳士らしく、海斗の手を取りスマートにキスをした。海斗はいつものことだとわかっていても、あまりの紳士らしさに毎回面白くて笑ってしまう。そしてビリーは隣にいるアルファを海斗に紹介した。 「彼は君と同じ日本人のルイ、今はイギリスに留学中の学生さんだ。僕は彼の父親と友達でね。ルイがこっちに来ているというから会いに行ったらびっくり! 成長したルイを見た瞬間、kai(カイ)に合う相手はルイしかいないってビビッときたんだ!」 ビリーに紹介された日本人は少し緊張しているような感じもしたが、堂々と海斗に挨拶をしてきた。 「はじめまして、kai(カイ)さん。俺は櫻井類(さくらいるい)といいます。謎のアジア人は、日本の方だったんですね。よろしくお願いします」 そのアルファ「櫻井類(さくらいるい)」は、綺麗なイギリス英語を話した。海斗が日本人だと知っても、ビリーたちがわかるようにきちんとこちらの言葉を使うのは好感が持てた。 だから海斗も英語で答える。 「はじめまして、モデルのkai(カイ)です。社長の方針で僕のすべては謎のままに、商品の引き立て役に徹してほしいという意向なので、僕の情報は発信しないようにしているんです。といってもモデル仲間やカメラマンには知られていますが」 「そうですか。俺はこの通りただの学生で、ビリーに捕まってしまって。足手まといにならないように気をつけます。俺のことは類と呼んでください」 見るからにアルファで王子様を見た海斗は「この通りって、どの通り?」と不思議に思った。 モテまくっているオーラ丸出しですけど? 日本人特有の控えめとか演じているのだろうか? アルファで日本人、それだけで海斗の何かをえぐりだしそうで嫌だった。 どうせ今日限定の相手の素人モデルに嫌だという気持ちを出す必要はないので、海斗はいつもみんなに対応するようにフレンドリーに接した。 「わかった、類。僕もカイと呼び捨てで、みんなの前では今みたいにこちらの言葉で話そう。二人で話す時は日本語も気軽に使ってね、それからお互いに敬語はやめよう」 海斗は愛想笑いをして、その場を収めた。 そして撮影は新作の時計だった。アルファ同士、アルファとベータ、アルファとオメガをモデルとした男二人と時計。 もちろんアルファを演じるのはそのまま類。海斗は類の相手役としてすべてのバースを演じる。今日はオメガも演じるが、とくに濡れ場のような色気は要らないと言われているので同日でも撮影可能だった。 さすがにアルファとオメガという、全く違うバースを同じ日に演じるのは疲れる。とくに宝石を扱うオメガモデルには色気も必要になるので、オメガを演じる前日には誰かとベッドを共にし、少しけだるい感じでいったほうがスムーズに撮影は進む。 その逆でアルファを演じる時は、前日に誰にも抱かれないようにしている。アルファには必要のない部類の色気が出て撮影にならなかった時があったからだった。 アルファ×アルファの撮影は、デキる男二人が仕事中の設定。資料を見て話す。二人の腕には形の違う時計。ジュエリーショップが出す時計なので金額が相当だった。アルファが身に着けるステータス。そんな雰囲気を出すのは王子様な類と、美形な海斗という違うタイプの美男子。 初めての撮影に望むも、類は全く物怖じもせず順調に進んだ。 「さすがルイだね! ただそこにいるだけでいつもどおりのルイの美しさが出ている。kai(カイ)の隣が今までのモデルの中で一番似合っている」 「ありがとう、ビリー」 ビリーが類を褒める。当たり前のようにその称賛を受け取る類。やはりアルファなだけにこういう人に見られる現場は慣れているようだった。海斗もスムーズに進むのなら、ありがたいと思った。類に対しての感情は、ただそれだけだった。 「カイは凄いね。いつもこんなたくさんの人に見られていて。俺、緊張してガチガチだった。とりあえずうまくいって良かったよ」 「えっ? 君、緊張なんてしていたの?」 「そりゃするよ。世界的モデルのカイの隣にいるんだよ」 「ははっ、そこ? 僕なんてラノキリアの中だけの有名人だよ。実際に会ったら別に普通の日本人でしょ」 「それこそ、何言っているの。普通の日本人はそもそもこんな場所にいないから! カイは面白いね。俺の日本にいる友達に少し似ている」 撮影をしながら会話も楽しめる。やはり余裕なアルファだった。静止画をとるだけだからどんな会話もしていても大丈夫だったが、類が屈託なく笑ったので撮影は止められた。 今求められているのは、ビジネスの中心にいるシリアスなアルファ同士だったからだ。 この子はアルファなのに、屈託ない笑い方をするんだなと海斗は思った。日本人アルファを相手にしていて知らない内に気が張っていたであろう海斗の体が、少し弛緩した瞬間だった。
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