6 家族の在り方

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話は急展開で、すぐに入籍をすることにした。子供を引き取るなら、夫夫(ふうふ)にならないことには始まらない。 翌日には役所で婚姻届をもらい、二人で記入した。 「類、本当にいいの?」 「えっ、海斗はダメなの!?」 「いいに決まっている! でも入籍を僕の家の事情で決めるなんて」 「寂しいこと言わないでよ、俺の家にもなるんだよ。海斗の家族は俺の事情でもある。それに俺たち婚約していたんだから、入籍の日が早まるくらい問題ないよ、むしろ早く嫁にできて嬉しい‼」 「もう」 ――類はブレないな。僕が好きで、僕を一番に考えてくれる人だ。でも、僕だって譲れないことがある。 「類、これを出す前に行きたいところがある」 「えっ、なに、そんな真面目な顔して、怖いな」 「類の親に、全てを話したい。もしそれで反対されたら類を奪いますって宣言する」 話して反対されても、類と生きるという結果は変わらない。それならキチンと説明することだけはしたい、それに類の母親のコトバも海斗は引っかかったままだった。きっと類もあの時の帰り際に、そう思ったに違いないと海斗は思う。 「頼もしいね、でもそうだな。親には全てを話さなければって思っていた。俺、海斗のこと何も話してなくて、勝手に親は関係ないって決めてかかったから。こないだの母さんの言葉は少し、罪悪感があった」 「そうだね、類のお母さんの言葉は当然だよ。僕のことなんにも話してないなら、判断するのはモデルという仕事だけ、それはそうだなってあの時は僕でもそう思ったから」 そう話し合い、再度櫻井家にお邪魔した。突然だったが、類の両親は二人を快く迎え入れてくれた。 そして海斗の家の事情を話した。全てを静かに聞いてくれる類の両親が、いったい何を思っているのか海斗にはわからなかったが、話は中断されることなく、全てを伝えた。 「勝手な話ですが、僕は弟の子供を引き取りたいと言ってくれた類に甘えたいと思います。僕はベータですが、彼と子供を育てて家族になっていきたい。どうか、それをお二人にもお許しいただきたいです。この事情もあり、性別は公表しないと決めました。もちろんオメガというには性別詐称にあたるので、あくまでも仕事上性別を明かせないということだけで、匂わせることしかできませんが……」 そこで、類の母親が言葉を切り出した。 「カイさん、話はわかりました。その子を櫻井家の孫として受け入れましょう! カイさんと血がつながっているなら、きっと将来は有望なモデルになるわね。辛い過去を話してくれてありがとう」 「……え?」 「私だってアルファだけど、そんなアルファは許せないわよ。どんな形にせよ、オメガを(つがい)にした人の取る行動ではないし、たとえ高校生だろうともオメガを(つがい)にしたという重要性を理解しないような人種はだめね。弟さんのサポートも櫻井家でできる限りさせてもらうわ」 「あ、ありがとうございます?」 類の母親は意外にも理解があるようだった、そして類の父親が笑った。 「妻は強いだろう? 類には厳しい教育をしたせいで私たちは息子に嫌われたみたいだが、アルファとしてオメガを、嫁一人だけを大切にするという教育だけはしてきたつもりだ。たとえ無理やりの(つがい)契約だろうと、一生を守れるならそれもありと言った覚えもある。そこはダメだと、ビリーには叱られたがね。だが弟さんの(つがい)はあまりにアルファとしてお粗末だ。君を捨てたのに、(つがい)も大事にしない。弟さんは、(つがい)解除の後遺症で記憶を失ったのだろう、一人の命を軽く見る人間はアルファだろうと許せない」 海斗も類もその言葉に驚いた。 類が正樹を無理やり(つがい)にしようとした時は、なぜ逃げられたのだと怒ったのに、(つがい)にしたら一生を見るという誓いはあるという櫻井家の教えがあるとは……。 もしかしてその教育が身についていたから、類は遊びでは付き合えないと、初めの頃は海斗を拒絶したのかもしれない。正樹の時だって、やり方は間違えていたが、きっと(つがい)にしてから大切にはぐくんでいくつもりだったのだろう。あくまでも普通じゃないけれど、幼少期からの教育がそれなら、類にとっては好きな人を(つがい)にするのは当たり前だったのだ。類の父親の言葉を聞いた今、海斗はハッキリとわかった。 海斗は急に、付き合うなら本気だと言われたのを思い出した。肉欲に負ける十代で、体だけの関係は結べないと言われたのには当時驚いた記憶もまだ新しい。 ――類、君はきちんと親の教育を受けたんじゃないか、それが身についていたんだ。 それまで体だけの関係を結んできた海斗にとっては新鮮で、あの時は類というアルファの真面目さを尊敬したくらいだった。 「……父さん」 「なんだ」 「あの、ありがとう」 「いや、なんだ。俺は世間にベータの嫁だと知られなければそれでいい。カイには悪いが、サクラジュエリーの取引先は、アルファ至上主義の家が根強いんだ。カイを否定する訳ではないが、会社を持つ以上、社員を、その家族を守らなければいけない。少しも評判に傷をつけてはいけないんだ。カイ君、本当にすまない」 類も自分の父親の言動に驚いたようだった。 海斗から見たら、この親子、致命的に会話が足りないだけに思えた。大企業を支える夫婦だから、家にはあまり居ないと言っていた。そういう幼少期を過ごして、親との距離が計れずに誤解があったのかもしれない。 海斗は、腹を割って話をしてみるものだと思った。確かに昔からのアルファ家系を商売の対象にしているなら、わからなくもない。アルファ至上主義、アルファ同士の夫婦か、(つがい)以外は認めないと聞いたことがある。 「いえ、そういう事情なら。社員を守るため、大切なことです。それでも僕を受け入れていただき、ありがとうございます。子供まで」 「むしろカイが嫁になるのは賛成だし、血の繋がりのある子供がいるなら、なおさらいいじゃないか。その弟さんの元(つがい)とは縁を切りなさい。関係を終わらせたら、今後の治療費などは我が家が負担する。うちの弁護士に話をつけさせるから、その男との一切の縁を切ることだけはさせてくれ」 「……はい。本当にありがとうございます」 そして、櫻井家で無事に海斗と赤ん坊は受け入れられた。その夜、役所に婚姻届を提出し、二人は夫夫(ふうふ)になった。 類の友達の結婚式の翌日に、入籍するとは驚きだった。 「あのブーケの威力凄いね」 「あぁ、結婚式に沙也加ちゃんから直接手渡しされた花嫁のブーケ? 次はあなたですってやつだよね? 結婚するのは決まっていたけど、まさかもらった次の日とかね」 「なんか、日本に来てからも良いことばかり。というか類と出会ってから僕、幸せが一気にきて少し怖いな」 「何言っているの、俺たちもう夫夫(ふうふ)だよ。ここで終わりじゃない、これから始まるんだ! もっと幸せにしてあげる。海斗、結婚してくれてありがとう。俺はあなたを一生守る、愛しています」 類が膝をついて、海斗の手を取った。 ――出会った頃からずっと王子様、僕だけの王子様。 「類、僕もあなたを愛しています。これからよろしくね、旦那様‼」 「海斗ッ‼」 初夜だと言って、その日から二日ベッドから出られなかった。お互いにこれ以上なくお互いを求めたとても記念に残る初夜だった。
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