6 家族の在り方

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二人がベッドに篭っている間に、櫻井家が弁護士をたて爽の家に行き、飯田家の代理人としてすべての処理をした。 弁護士が、どのように(つがい)解除という結論に辿り着いたのか、爽から聞き出してくれていた。 初夜と言われる二日間を終えた後、海斗と類は弁護士に会って直接全てを聞いた。 爽と陸斗は別れを決めた後、次の発情期が来る前にオメガ治療最先端の岩峰総合病院に二人で来院した。 爽はヒートの時だけ陸斗と会っていたが、好きな気持ちは冷めて、ただ本能で抱けるというそれだけの関係に嫌気が差していたとのことだった。そこで(つがい)解除の画期的な治療法があると知った爽は、陸斗にその話を持ちかけて、陸斗も了承し二人は決別するべく最後の作業に移る決意を決めた。 (つがい)解除の治療を始めるために、爽は岩峰医師から血液やら精液やらのサンプルの提出と、保健治療外という説明を受けて莫大な治療費を支払うという手続きをしただけで、後は陸斗一人で来院していたらしい。それ以来二人は会っていなかった。 ちなみに、(つがい)のアルファの消息が掴めない場合などのオメガ主体の治療は保険が効く。アルファからの(つがい)解除は保険外で、アルファが実費で治療費を払うことになっているらしい。それほどに、してはいけない行為なのだ。アルファがその治療を怠るようなら、法律で罰せられる。 爽は合法的に手続きをして、陸斗と終わったと言った。 岩峰医師が陸斗の意思を尊重したので、爽は陸斗の妊娠を知らない。爽は発情期に呼ばれないことに、治療がうまくいったのだろうと思っていたらしく、陸斗のことは考えてもなかったと。 だから今回、弁護士の話を聞いて驚いていたらしい。陸斗が(つがい)解除の影響で、記憶喪失になったことに、さすがに爽も罪悪感を持った。 陸斗は、爽が用意した家に住んでいて、本当にたった一人でずっと暮らしていたのだ。治療さえ始めれば、もう関係ないと爽は陸斗の住む家に行くことはなかった。それまでも爽とはヒートの時だけ顔を合わせて、あとは一人。その話を聞いた海斗は、陸斗はどんなに寂しい思いをしていたのだろうと胸が苦しくなった。今となっては陸斗のその時の気持ちを知ることはできなくなったが、そんな思いは記憶とともに忘れられて良かったと兄としてそこだけは救われた。 陸斗の住んでいた家は、所持品を含めそっちで処理してくれと弁護士は伝えた。そして治療のために、二人が(つがい)だったという事実を本人に伝えないこと。爽が引き取った子供の親が陸斗だと、誰にも言わないこと。たとえ子供にも実の母親の事実は言うなと約束させた。 出産経験があることを、陸斗自身が忘れているのだから、知らない方が今後の治療のためと言われれば、そうするしかない。そもそも嫁の子供として育てているから、子供も実の母親は一緒に暮らしている爽の嫁だと思っているとのことで、爽自身も都合が良かった。 それはそれで、海斗としては凄く腹立たしかった。 陸斗との一切を誰にも言わない、そして飯田家との接触も禁止し、それをすべて書面で契約を交わす。 本来なら一生治療費を支払うというのが、法律で決まっているが、向こう三年分の治療費を一括で病院に前払いすることを慰謝料とした。 お金でさえも、繋がっていたくない。 飯田家は爽から、一切のお金を受け取らないと決めた。櫻井家が治療費を払うと言ってくれたが、陸斗くらい海斗が養える。そこは追々、櫻井家と話し合って決めていくことにしようと海斗は思っていた。 爽との関係の全てを清算できたのは、海斗も海斗の両親も嬉しかった。櫻井家の顧問弁護士という、最強の人のお陰ですんなりと片付いた。 爽は別れたかった(つがい)が自分を忘れて、子供の存在すらも忘れてくれて、一生かかる治療費も三年分で済んでむしろラッキーだろう。弁護士がそういう印象を受けたと、海斗に言った。 弁護士から見ても、海斗から見ても、爽は最低な人種に見えたが、もういい。いつまでも恨むだけ時間も、心ももったいない。完璧に縁が切れるなら、記憶の無い陸斗にとっても喜ばしいことだと海斗は思うことにした。 そんなスッキリしたある日、海斗と類は、西条司のホテルに来ていた。司に入籍の報告と、来年ここで結婚式をするための打ち合わせをするためだった。 結婚したからには結婚式のことも早急に決める必要があると、類が焦りだしたのもあり、すぐに司と会う手筈を決めていた。 打合せが終わったら、明日から類と沖縄に行く。久しぶりに昔世話になった叔父夫妻にも会えるのも、類と国内旅行をするのも海斗は楽しみで仕方なかった。 その前に陸斗に会いに病院にも行って、今日も忙しいぞ! そんな順調な海斗の一日だった。 類の初恋の相手、正樹の恋人のアルファである西条司は、まだ高校三年生なのに、もう国内のホテル事業を手がけている。正樹と過ごす発情期のための高級ヴィラまで建てたり、ビジネスではかなり優秀なアルファということがわかった。 ――司は僕に対しても別に変なところもないし、むしろ感じが良くて驚いたよ。ネチ男なのは正樹関連だけなんて、なんか可愛いアルファだなって思えてきた。 海斗が見守る中、アルファ二人は話が進んでいて、とても穏やかな打ち合わせとなっていた。 そして打ち合わせも終わった頃、ビリーからの連絡が類に入った。あれから類はビリーの話を受けた。類の両親もビリーからのオファーに大変喜んでいた。海斗と出会ったお陰で、類がどんどんアルファとして成長していると、類の母親からはむしろ海斗が礼を言われたくらいだった。 ――そりゃ、息子がラノキリア日本支社の社長だよ‼ 凄いことだもんね。僕というより、類自身に実力をビリーは見極めなければそんな大役は回ってこないよ。 ビリーの性格を知る類の両親なら、類の将来性を見込まれた抜擢であるとわかっているはずなのに、海斗との出会いを何かにつけて喜んでくれるのは、海斗自身嬉しかった。 やはり結婚するなら両家から祝福をされたいので、今回の日本への帰国は海斗が想像してもいなかったくらいの良い結果をもたらした。   「海斗、ごめん! 急にビリーが日本の物件確かめてこいって、青山と銀座に二軒抑えたから、俺の目で今日中に確かめろって、まだ俺ラノキリア入社したわけじゃないのに、もうこき使われている」 「ふふ、でも僕たちが日本にいる間に役に立てるならいいじゃない! がんばろう、僕も一緒に行くよ」 「いや、海斗はここ数日いろいろあって疲れているだろ? 西条、悪いけど部屋一つ空きない? 海斗をホテルに送る時間なさそうだから、いったん海斗をこのホテルで預かってくれない? 夜に迎えに来るから」 類が司に話を振った。 「ああ、いいよ。スイートはもう埋まっているから、少しランク下がってもいいか? どの部屋もセキュリティーは万全だから任せろ」 「ああ、海斗を一人休ませるだけだから助かる。ありがとな」 アルファ二人で話が進んでいた。 「えっ、僕一人でホテル戻れるよ?」 「「ダメだ‼」」 ――あれ? 二人でハモった? なぜ他人の司まで僕にダメ出しするんだろ。 「いや、海斗は有名人だから一人はだめ」 「そうだ、カイに何かあったら、正樹に恨まれんのは俺だ。それから正樹が会いたがっているから、良かったらここにいてくれると助かる。正樹呼んでいいか?」 「ま、正樹? う、うん会いたいな。じゃあ、類は気をつけてね、司ありがとう」 そうして、司から部屋のキーを預かった。部屋まで送ると言われたが、エレベーター前で大丈夫と言って断った海斗だった。
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