10 そして家族になった

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10 そして家族になった

「びり――‼」 「ハイ! スカイ、元気そうだね」 「ぼく、げんきぃ、びり―も元気!?」 「ああ、元気だよ。はは、重くなったな」 海斗と類の息子は、元気にビリーの元まで走っていくと、ビリーは破顔して幼い息子を抱きしめた。「きゃっきゃっ」と言いながら、(そら)も嬉しそうにしている。二人の息子は、日本名で空だから、イギリスではみんなにスカイって言われている。ラノキリアスタッフみんなに愛されて、空はいつも楽しそうだった。日本も好きだけど、イギリスの方がなんとなく落ち着くみたいに海斗には見えていた。 ――僕と一緒で、こっちの空気が合うのかもしれない。 「ビリー、この子、重くなったでしょ?」 「ほんとに、健康に成長したね。おかえりkai(カイ)」 「ただいま、今回は半年くらいこっちにいるからよろしくね」 「じゃあ、スカイをいろんなところに連れまわせるな‼」 おじいちゃんみたいな存在になっているビリー。 久々にイギリスにきて、こちらで仕事をこなすために半年滞在することになっている。あれから、海斗と類は日本で生きていたけれど、本社がイギリスにあるし、イギリスでのモデル活動もまだ続けているので、たまに長期で戻ってきては働いている。 二人の息子の空は四歳になった。立派に成長して、といっても他の同い年の子供よりは小さい体をしているが、病気一つせずに元気に育っている。 「ママ、パパはもう来る?」 「そうだね、もうすぐ到着する頃だと思うけど」 もちろん、海斗の仕事と類の仕事のスケジュールは同じにして、いつでも一緒に同じ国で過ごす。イギリスでの家も残したままなので、二つの国に我が家が存在する。今回は一日遅れで、類がこちらに来ることになっていた。 「海斗、空、こっちだよ」 「パパ――‼」 よたっとしながらも一生懸命に走って、父親のもとに行く我が子の後姿がとても可愛い。ビリーがほほえましい顔で、海斗に問う。 「kai(カイ)、幸せ?」 「うん、とっても」 「スカイもますます可愛くなる、そろそろラノキリアモデルデビューしてもいいんじゃない?」 「それ、櫻井のお義父さんと相談してね。サクラジュエリー専属にするっていつも言っているから、ビリーが抜け駆けしたら怒ると思うよ?」 「おう! イクゾウも孫にデロデロだなぁ。僕も負けてられないね」 イギリス紳士のビリーはそう言って、海斗にウィンクをする。安定のビリーだった。空は成長すると、海斗と陸斗の母にそっくりになっていった。世間にはおばあちゃん似で通っているので、誰も海斗の子供ではないと疑っていない。爽の遺伝子は一つも見出せずホッとした。 海斗も陸斗も母に似ているので、その遺伝子が強かったようだ。海斗の父は孫にデロデロだった。母の若い頃は、それは美しかったらしい。懐かしそうにアルファと母を競い合ったと言っていた。空も綺麗になるぞって、ちょっとだけ寂しそうに話していて、とにかく初孫を堪能して甘やかしてばかりだった。 「あれ、海斗、空眠っちゃったよ?」 「はは、はしゃぎすぎたんだね、パパの抱っこが安心したんじゃない?」 「可愛い顔を見たら、俺も安心しちゃった。海斗、会いたかった」 「一日しか離れてないでしょ。でも僕も会いたかった」 空を抱っこしながら、海斗にキスをする類。それを見てビリーが笑った。 「君たちは何年たっても熱いね。さあ、仕事の打ち合わせをするよ、中に入ろう」 「ふふ、そうだね。僕たちはいつまでたっても熱い」 ビリーにエスコートされてラノキリア本社へ入る。 類と初めて会った思い出の場所、明日はそのスタジオで家族写真を撮ってもらう。毎年、類が海斗に宝石をプレゼントする。その記念に家族三人、プロのカメラマンで友人のアマンダが楽しそうに撮る。海斗たちの写真がまた一枚、明日増える。そうやってどんどん家族になって、思い出が増えていく。 ――あの時の僕は、まだ終わりきれていなかった失恋を引きずって、ビッチなベータとして、毎晩違う男のベッドを歩きわたっていた。それが今では、旦那様一筋のオメガになって、愛する息子を育てているんだから、人生わからないもんだよね。 「海斗? どうしたの」 「ううん、僕は今日も類を愛しているって、そう思っていたところ」 「なに、それ、俺一日離れて海斗不足なのに、俺を誘惑する気? ちょっといい香りもしてきているじゃん‼」 「あれ? 類に会って、嬉しくてフェロモンでちゃったかな」 「危ないなぁ、俺にしかわからないからいいけど、もう‼ キスだけさせて」 「嬉しい、して」 息子を抱えながらも、器用に深い口づけをする。類の香りが口内に入るとたまらなく、嬉しくてしかたない。 「ん、んん、類、好き」 「ああ、俺は愛してる」 「僕も‼ 愛してる」  ―― 運命を知りたくないベータ fin  ―― 物語、お読みくださりありがとうございました! ☆riiko☆
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