番外編 幸せなその後

1/4
前へ
/65ページ
次へ

番外編 幸せなその後

正樹に子供が産まれたと、イギリスにいる二人の元に連絡が来た。 櫻井一家は、日本とイギリスを行き来している生活をもう数年している。一人息子の空も、生まれた時からそれが当たり前だったので、なんの疑問もなく我が家はそういうものだと理解しているようだった。 西条夫妻は、高校の時に運命という絆で結ばれた(つがい)。そして今は懐かしい思い出話だが、類が恋に敗れた相手。そんな類の高校時代の友人たちと、海斗は同級生だった類よりも親しくなっていた。 二人のことは、今では類よりも海斗の方が詳しいくらいである。夫の元想い人とも仲良くなれる妻。夫夫関係が円満な証拠だった。 そして類の大事な友である明は、今では海斗の義理の弟になっている。なんとも不思議な巡り合わせだった。 その明の妻である陸斗は、これまた類の友達である近藤の妻のオメガ男性と親友のような立場になっている。 そんなわけで四組のカップルは大変仲がよく、何かがあると集まるようにしていた。 今回は正樹と司の、双子の赤ちゃんのお披露目ということで、ホームパーティーを開くこととなった。 司と正樹の結婚は二十歳になってからって約束をしていたので、海斗たちは空という事情もあり、彼らよりも一年早く入籍をした。海斗は正樹と日本に帰るたびによく会っていたので、いろんな事情を聞きつつ、なぜか正樹の母である百合子ともいつの間にかとっても仲良くなっていた。 百合子とは、また面白い人で海斗は一目で気に入っていた。正樹よりもある意味最強の人だと、海斗は思う。百合子は腐女子という部類の女性らしく、息子の恋愛をずっと見守ってはよだれを垂らしてアルファとオメガの恋愛を見ていた。百合子自体はベータ女子だったので、とても憧れがあると言っていた。 「あ、でも、私はあくまでも憧れであって、大好きなのは和樹君だけだからね。フェロモンなんかなくても、彼は私にとってフェロモンの塊のような存在なのよ」 「父さんいったいどんな存在だよ!? それじゃただの中年迷惑フェロモン野郎じゃないか! ってか、母さん、マジで恥ずかしいからやめろよ。親のイチャコラ話なんて、聞くのいやだかんな! 海斗さんだってもうお腹いっぱいだってば」 「はは、僕はまだまだいけるよ!」 海斗はこの母子の会話が好きだった。 そしてたまに正樹の父である和樹が微笑ましい顔で二人を見ている。そんな家族関係に憧れる。自分と類と空もこうやって家族として愛をはぐくんでいくんだろうなという未来予想図を見ているようだった。 「僕は百合ちゃんと和樹さんの恋愛話、好きだなぁ。そういえば百合ちゃんの新作、凄く面白かった!」 「あら、海斗君。もう読んでくれたの? 嬉しいわ、正樹たちの実生活よりも先の話だから、百合子もう想像妄想膨らみまくりだったわ」 「はは、凄いストーリーだったよね。正樹って意外に大人なエロも出来るんだね!」 「お、おとなのエロ……。ちょ、ちょ、ちょっと! 母さん、また小説に何か書いたんだよ! 俺らの、そ、そ、そういうの知らないだろ」 ――あ、正樹がドもった。そういうのって、エッチってことだよね。さすがに母親とそんなことしゃべれないもんね。ほんと、この二人の会話面白いな。 「だから想像妄想だって言ったじゃないの。いやぁね。そんなに興奮して。正樹もいつかママの小説読んで、もっと司君をメロメロにする勉強してみなさい」 「はぁ! そんな小説読めるかよ!? ていうかこれ以上司が俺にめ、めろめろ……になったら困るだろォ!」 と真っ赤な顔で反応した正樹だった。 それを見て笑う海斗。メロメロだとか言っておきながら赤い顔をする正樹を見て、ひそかに写真を撮り司に送った海斗は、後に司に喜ばれたのは言うまでもない。お礼として、数か月先まで取れないという幻の司のヴィラに最速で招待されたのだった。 というのが、真山家が二世帯住宅になった時の話。正樹の母、百合子はなんと息子カップルを題材にした小説を発表して、それがバカ売れして印税が沢山入ったということで、その頃真山家に入り浸っていた司も正式に、二世帯住宅を建てるということで真山家の住人になれた。 ――司は金持ちなのに、なぜ嫁の家に? ってあの時は不思議だったんだよね。 それは、実は正樹が何気なく言った一言が原因だったとか。付き合いたての頃に、司は正樹に好きなごはんは何かと聞いたところ、「母さんが作る飯なら何でも好き!」と素でマザコン発言をしたそうだ。密かに司は百合子をシェフとして雇いたいと思っていたが、正樹の父が許すわけもないと考え、司は和樹に同居させてほしいと頼んだそうだ。理由は、母と正樹を離すことで、正樹の体調管理が怠ってしまってはいけないと。それは大変だと、和樹も司を真山家に招き入れたとか? ――そういうなんとも過保護というか不思議な理由。司もだけど、真山家の皆さんもぶっ飛んでるなぁ。それがあの人たちの楽しいところだけど! 司はアルファ過ぎるほどのアルファなのに、変なところで柔軟だなと思う海斗だった。アルファならオメガを自分一人で囲いたいとか思うモノだと勝手に思っていたけれど、司も正樹も海斗から見たら規格外のアルファとオメガだったらしい。 そんな新婚生活を真山家二世帯住宅で過ごしていた二人。大学在学中に正樹は妊娠が発覚し、そして卒業まじかに正樹は双子を産んだ。 どうもその時間軸を考えると、司の計画ではないかと思う海斗だった。正樹が社会に出る前に子供をつくって、働かせないように家に囲う。自然にそういう流れにして大事なオメガを囲うということを司はしている。以前、そう思ったことを類に話した海斗だったが、類もその通りだろうと言っていた。 面と向かって働かずに家にいてくれと言って反抗されるより、そういう自然な流れを作って家にいるのが当たり前みたいにするのが司の目的だろうと。そして母という頼もしい人が家にいることで、家が楽しくて外で働かなくてもアルファの旦那と子供を育てるということを生きがいにできる。なによりも正樹がそれを望むように導くという、司は策士だと二人は笑った。 ――正樹はチョロいんだか、素直なんだか。でも正樹はあれで自分をしっかり持ってるから、なんなら正樹の人生設計どおりに、結婚と出産? だって結婚は二十歳になってからというのは正樹からの提案だっていうし。 案外、司の方が正樹に操られているのかもと類に言うと、それもそうかもしれないと、やはり最強オメガな正樹だと類は笑っていた。 正樹を見ても、司を見ても、いつも二人は幸せそうだったから、それがきっとこの二人の生き方なのだろうと海斗は思った。海斗は家に入って夫と息子だけを見るのもいいとは思うが、やはりモデルとしてのやりがいのある仕事が好きなので、外に出て働くのも海斗にとっては好きなことのひとつだから。人それぞれだ。
/65ページ

最初のコメントを投稿しよう!

774人が本棚に入れています
本棚に追加