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正樹が出産したばかりの頃は、海斗たちはまだイギリスでバリバリ仕事をしている最中だった。少し落ち着いて今度は日本に戻ることが決まった時、海斗は正樹に連絡をした。
類と海斗の一人息子である息子の空は、いつの間にか四歳になっていた。
空も、陸斗自身も、陸斗が空の産みの親だとは知らない事実だったが、陸斗と夫である明には叔父夫妻として可愛がられている。西条夫妻も、空が生まれた時から可愛がってくれている。
結局、海斗がベータと知っていた司と正樹、明と近藤には、空の出生の秘密は話した。そして一生の秘密にすることを誓ってくれたのだった。
実際に空は祖母似なので、海斗と陸斗の母親に似た隔世遺伝みたいなものとして、海斗の息子だと誰もが思ってくれる。世間は空の本当の親が陸斗だということは知らないのだった。
類とも、両親とも話した結果、この事実は陸斗が空を出産したことを思い出さない限り言わないと決めた。空にも一生の秘密にするつもりだった。願わくばそのまま、二人の実の子供として一生を終えて欲しいと願う、類と海斗だった。それほどまでに二人は空を溺愛していた。
司はこの春、大学を卒業して実家のホテルで司ののもとで社長業を学んでいる。類の親友である、近藤も明も社会人になり会社勤めを始めていた。そんな忙しい友人たちだったが、海斗たちが日本に帰った時は、極力みんなで会うことにしてくれていた。
今回はまだ赤ん坊な双子を外に連れ出せないのもあり、真山家に遊びに行くことになった。
「なんか、ここに来ると安心するね。なんでだろう」
「はは、正樹の実家だから、温かさしかないもんな」
類と海斗、そして息子の空は真山家の玄関前に到着していた。インターフォンを鳴らすと中からは懐かしい顔が出てきた。
「櫻井様ご夫妻、そして空坊ちゃん。おまちしておりました」
「えっ、笹本さん! うわっ、なにこれ」
真山家から笹本がでてきた。笹本は、海斗が司のホテルで爽から襲われた時に助けてくれた司のホテルの支配人だ。司の執事的存在な人らしいから、司の嫁の家にも出入りを自由にしているとか。
「世界のカイ様、そしてそのご子息でモデルデビューをはたした空様もいらっしゃるんです。百合子様とお迎えの準備をどうするか話していたんですよ、はは。いかがですかな?」
「うわぁぁ――笹本おじちゃん! 凄い! ママ、お家の中に真っ赤な絨毯が敷いてあるよ」
空が海斗の手を握って、見上げてきた。
「空ぼっちゃん。お久しぶりですね、ますますお可愛くなりましたな」
「笹本おじちゃん! 会いたかった」
「笹本もです」
空は笹本にぎゅっと抱き着いていた。安心する紳士だと、海斗はいつも思う。
「笹本さん、お久しぶりです。なんか、百合ちゃんの考えそうなことだけど、笹本さんも意外におちゃめなんですね」
「はは、楽しませていただいております」
「笹本さん、ちょっと荷物になるんですが、良かったらホテルのスタッフの方とこちらお召し上がりください」
「海斗様、いつもお心遣いありがとうございます。では、遠慮なく!」
笹本にはいつもお世話になっているので、イギリスでの土産を大量に渡した。そしてそこに正樹の母親の百合子が登場した。
「海斗君! きゃあぁ、本物のセレブがレッドカーペット歩いてるわぁ! 百合子キュンキュンしちゃう! 笹本さんのアイデア最高だわ!」
「百合子様、お褒めくださり恐縮です」
――あっ、笹本さんのアイデアだったんだ。
「はは! 相変わらず百合ちゃんは可愛いね。今日はお世話になります」
空も百合子に駆け寄り、ハグをしていた。空は海外育ちだから距離が近い。そんな風に玄関先で騒がしくしていると、笹本はホテルで仕事があるからと出て行ってしまった。
「ああ、そうだ。正樹は双子と司君を呼びに二階に行ったから、櫻井君と海斗君は上に行って呼んできてくれない? きっとあの子たちラブラブ始まっちゃってると思うのよね、ほどほどにって意味で二人は声かけてあげてね」
「百合子さんは、さすがお見通しですね」
「あら、アルファという婿を身近で見てるんだもの。二人の習性はだいたいわかるわよ? 櫻井君もこんな美人妻がいるんじゃ、二階から降りてこられないかしら? 空君は私が見てるから、いいのよ? むふふ」
「まさか、人様の家で何もしませんよ。じゃあ、空をお願いしますね、ちょっと二人を呼んできます」
類が百合子にからかわれながら会話をしている姿を見て、海斗はほっこりしていた。そして空は百合子に遊んでもらい、二階へあがる。
「百合ちゃんって凄いね。あんな最強な母親がいて、この家で安心していちゃつける二人も凄いけどさ」
「まさか、本当にヤッテルなんて無いと思うけど。一応俺らが来ること知ってるしさぁ」
「ふふ、そうだよね。百合ちゃんの妄想だよね」
二人で笑いながら階段を上がると、最初の部屋にはなんと百合子の想像通りの展開になっていた。
まさかの、正樹が上になって寝ている司に襲い掛かっている最中だった。海斗と類は思わずお互いに目を合わせて、呼吸を止めた。
司は下にされながらも、キスに夢中になっている正樹の服をめくり、胸をはだけていた。そして正樹が小声で司に話しているけれど、二人の耳には丸聞こえだった。
「あっ、こら! だめだろう。もう準備が終わって笹本さんも帰っていったぞ。みんなもうすぐ来るから」
「ああ、そうだった。寝起きに俺の女神がキスをするもんだから、お誘いかと思ったよ」
「間違いないが、それは今じゃないからな。さあ、下へ行くぞ」
「う……ん。もうちょっとだけ、もう少しキスしたらな」
「ふあっ、んんん、おまっ、はん」
そんな会話をしながらも、濃厚なキスをしている司と正樹。
――百合ちゃんの小説、あながち間違ってないな。さすが母親、凄い。百合ちゃん! 正樹が上に乗ってがんばってるよ。
心の中で海斗は面白くなり思わず類を見ると、類と顔を合わせた瞬間お互いに声に出して笑ってしまった。
すると、正樹がこちらを見た。正樹にばれてしまったからには、声をかけなければと思い、ドアのところで海斗と類は普通に会話をした。
「ははは、驚いちゃったよ! まさか正樹から司に乗っかっているなんて。司の執着が強そうに見えていたけど、主導権は正樹ってことかな?」
「ああ、正樹はああ見えても男前だからな、西条を押し倒すくらいわけないだろう」
正樹が真っ赤な顔をして、驚愕した顔をしていた。
「えっ、か、海斗さん!? と櫻井!」
「ごめんごめん、二人とも久しぶり。百合ちゃんが二人を呼びに行って欲しいって言っていたから。良かったね、類。空を二階に連れてこなくて。流石に教育上よくないよね、空の大好きな正樹が旦那の上に乗って、胸を出して夢中にキスをしている姿は」
「ちょ、言い方!」
正樹をからかうのは面白いと、いつもからかってしまう海斗だった。すると二人の近くにあるベビーベッドが目に入ったので、海斗はそちらに向かった。双子がすやすやと寝ていて本当に可愛かった。空が赤ちゃんだったときを思い出して懐かしいような、不思議な気分だった。
「うわっ、可愛いね双子ちゃん。あれ? まだ一歳にもならないのに、すでに司に似ているって、遺伝子強くない?」
「ほんとだ、こないだ写真もらったときはそこまでじゃなかったのに、もう西条の顔をしているな」
海斗も類も、一目で司の子供だとわかる顔にますます微笑ましくなった。
「お前ら、新婚夫夫の部屋に許可なく来やがって。俺と正樹のラブシーンを邪魔するな」
そこで司が、せせこましく正樹の世話をして。というか自分でめくった正樹の服を整え、正樹の素肌を隠していた。二人の時間を邪魔されたことを少し根に持っているようだった。
「新婚って、もう二年は経っただろ? お前らこそ、客ほっといていちゃつくなよ。こんな日くらい我慢したらどうだ?」
類は呆れた声で、司にそう言うと。
「俺が正樹を我慢する日は、正樹が病気の時だけだ」
「はいはい」
司が意味の分からない正樹への執着を見せている隙に、正樹はいつものことだという慣れた感じで司の言葉を無視して、ちょうど目を覚まして笑う双子を抱っこして、海斗にもう一人をお願いして二人で一階へと降りて行った。
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