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海斗と正樹が一階に降りると、空が駆け寄って来た。
「あっ、まさ君!」
「おう、空! また大きくなって、ますますお母さんに似てきたな。最近モデルデビューしたんだって?」
「うん! ママと一緒にアマンダが写真撮ってくれたの! それでね、パパの会社のパンフレットに乗ったよ!」
「凄いな!」
四歳の空は正樹の足に絡みついていた。
――ふふ、僕の息子、本当に可愛いな。
正樹は片手で赤ん坊を抱っこしつつ、足に絡みつく空の頭を撫でた。正樹は、最近ラノキリアジャパンでモデルとしてデビューした空のことを聞いてきた。
「よく櫻井が許したね。こんな可愛い子を世間にさらすことを」
「一応ね、日本版だけってことで許可したんだ。まだ世界は早いからね」
二人で一階に置いてあったベビーベッドに双子を降ろすと、正樹は空を抱っこした。
「うわっ、空は重くなったな」
「まさ君、その言い方はどうかと思うよ?」
「はは、お前はやっぱりモデルの子だ、意識高い系か? 重いっていうのは成長した証拠で、いい意味だかんな?」
「う――、じゃあ許してあげるね。あっ僕、赤ちゃん見てきていい?」
「おう、双子を見てやってくれ」
正樹が空を降ろすと、百合子が空と手を繋いで双子のところに連れて行った。そしていつの間にか、他のみんなも真山家に到着していた。
「よう! 正樹、すっかり母親気どりだな」
「おぅ、お前たちももう来ていたのな。ってか気どりじゃなくて、母親だわ」
近藤が軽く正樹に突っ込み、正樹も軽く返す。軽快なやり取りが元同級生っぽいなと、海斗は微笑ましく二人を見ていた。そこに明が正樹をからかう。
「おお、まんま西条じゃねえか! 元気に育っているな、西条ジュニアたちは」
「俺のジュニアでもあるからな!」
明は甥っ子にあたる空の頭を撫でてから、双子を見ていた。明の言いたいことは分かる。遺伝子丸ごと、司が入っている双子だと海斗も思っていたから。明と一緒にきた、海斗の弟の陸斗は手土産を持っていた。
「正樹君、本日はお招きありがとう! リース作ってきたんだ。ちょっと不格好だけど、良かったらどこかに飾って」
「陸斗、すげぇな。これ陸斗が作ったの?」
「うん。作ったばかりだから、香りも楽しんでね」
「さすが、プロはする事が違うな。ありがとう、大事にする」
陸斗は現在、花屋で仕事をしている自立したオメガになっていた。明と結婚して、そして仕事もして、本来はこういったアクティブに動く子だったのだと、海斗は陸斗の成長を見るたびに、嬉しくて泣き出しそうになる。陸斗には明が付いてくれているというのも、とても心強く、いつも感謝の気持ちでいっぱいだった。もうあのようなアルファではなく、陸斗を心から愛し敬い、導いてくれるベータの男の子が側にいる。性別なんて関係ない、二人が想いあっていれば。
弟夫妻をみると、いつもそれを痛感させられる。
二人は明が高校三年生の時から付き合い、今年社会人になった明はやっと陸斗と結婚した。本当は大学入ったらすぐ結婚すると言っていたが、陸斗が一足先に社会人になり、結婚するよりも仕事に専念したいと陸斗が思ったことで結婚が遅くなった。
そして今年やっと明も社会人になって、なんとも幸せそうな新婚家庭が始まった。
「陸斗、綺麗に作れているね。花屋の仕事も立派にこなしているって、オーナーが褒めていたよ」
「お兄ちゃん! おかえりなさい。お花屋さんは僕の天職みたいだよ! ねぇ、年末は実家にくるよね?」
「ああ、家族でお邪魔するよ。陸斗も明と来るんでしょ?」
「うん、楽しみにしているんだ」
海斗と陸斗が、兄弟微笑ましく話していると、こそこそっと正樹と百合子の会話が海斗の耳に聞こえてきた。
「母さん、レッドカーペット敷いておいて良かったな」
「ええ、本当に。美しい兄弟っているのね。ママ、うっとりしちゃうわ。ここがパリコレ会場に見えてきた」
「俺も、マジで我が家かと見間違えちゃうよ」
正樹と百合子母子は、相変わらずぶっ飛んだ思考が面白いなと海斗は心で笑っていた。その正樹は、近藤と明を見てにやっとした。
「なんだよ、正樹。変な顔しやがって、お前失礼なこと考えてないだろうな?」
「お前ら庶民を見て、安心する庶民の俺を許せ。それよか近藤、お前の嫁はどうした? 早速捨てられたか?」
「ば――か、正樹のくせに生意気言うな。俺んところ子供ができたわ。そんで妻はつわり中で今回は不参加だ」
「「うわっ、おめでと――」」
海斗と正樹は同時に言葉を発した。
「つわり大丈夫か? お前、こんなところに遊びに来ていいのか?」
「ああ、大丈夫だ。本当はあいつも一緒に来るはずだったんだけどな、ちょっと無理そうってなって実家に預けてきた。せっかく作ったからこれ持って行ってくれって言われていて」
「うわっ、大変な時にありがとう。上手そうなケーキ! さすがパティシエは違うな、食後にみんなで食おうぜ!」
近藤の嫁はオメガ男子で現役パティシエだった。そして陸斗は花屋の仕事に生きがいを見つけた。海斗はモデル、正樹は専業主夫と新米ママという。オメガが四人集まればそれぞれに個性ある生活を送っていた。
そして外に出ていた正樹の父親の和樹と、司の両親も集まり、親族友人総勢で司と正樹の双子お披露目パーティーが始まった。
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