番外編 幸せなその後

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「じゃあ、みんな乾杯!」 「「乾杯!」」 みんなが一斉にグラスを掲げて乾杯をした。 「ぶはっ、正樹に任せると簡単でいいわ」 「俺に複雑を求めるな」 近藤が突っ込む。 「今年は正樹の子供も生まれたし、来年は近藤のところだな。二人ともおめでとう!」 「おぅ、明は社会人一年生ガンバレ!」 「お前は上からだな。はは、お前も母親一年生ガンバレよ」 明が陸斗の腰を抱きしめ正樹に突っ込む。陸斗はそんな明のことを嬉しそうに見つめていた。すると陸斗がいきなり凄いことを言った。 「実はね、僕も妊娠したんだ」 「「「えっ」」」 海斗は驚いたが、夫である明まで驚いているのを見て二度驚いた。 「明君、言うのが遅くなってごめんね。さっき病院で聞いてきたばかりで」 「マジかよ! うわっ、陸斗、ありがとう!」 「うん」 明が泣いた。そして正樹ももらい泣きしていた。 二人の付き合いは順調だったが、陸斗には人に言えないような過去がある。記憶を失った陸斗が知っている限りのことしか、当の本人である陸斗は知らないけれど、ここにいる友人たちは皆、陸斗の深い過去を知っているのでそれぞれに陸斗の妊娠という言葉に深く何かを思って、感動しているように海斗には見えた。 いや、海斗自身もとてつもなく今、感動している。陸斗は記憶を失っても、また子供をつくりたいと思ったんだと。そしてそれが叶って、皆に嬉しそうに報告している。 それが全てだと海斗は思う。 「陸斗……赤ちゃん、おめでとう」 「お兄ちゃん、ありがとう!」 海斗は、自然に陸斗を抱きしめていた。 「明もおめでとう。これからも陸斗とお腹の子をよろしくね」 「任せてよ、ぐすっ」 明も泣いていた。そして、陸斗の本当の息子である空は無邪気に喜ぶ。 「うわ――、陸ちゃんのお腹に赤ちゃんきたの? 僕の従兄弟だ!」 「そうだね、空も楽しみにしていてね」 陸斗が空の頭を撫でていた。それを見て涙ぐむ海斗と類。明もさらに男泣きをしている。陸斗はそこまで泣くほど? と声をかけるが、泣くほどの出来事なのはみな分かるので温かく見守られていた。そして事情は知らない百合子は、普通に子供が出来たと知って感動の言葉を言う。 「こんなおめでたい日に立ち会えるなんて、とても嬉しいわ。陸斗君、明君、近藤君も、本当におめでとう」 「「「ありがとうございます!」」」 陸斗も明も嬉しそうに笑った。 「海斗君も、良かったわね」 「ぐすっ、ありがとう、百合ちゃん。月ちゃんも二人とも、お孫さんの誕生おめでとう。二人はまだまだ美しいから、こんな若いおばあちゃんで双子も自慢だろうね」 月ちゃんとは、司の母親で百合子と月子は義理母同士仲良くしているので、海斗も良く知っている。 「あら海斗君ったら、お上手ね。海斗君も陸斗君もおめでとう、また家族が増えるわね」 「海斗君ったら、私たちを若くて美しいおばあちゃんだなんて、さすが世界のkai(カイ)だわ。褒められて嬉しい!」 そんな百合子という母を見て、飽きれている正樹に類が話しかけた。 「そう言えば、正樹聞いた? 沙也加ちゃんのところ二人目が無事に生まれたって」 「聞いたよ、二人目も女の子だって。今回は参加できなくてごめんねって連絡きたよ」 「沙也加ちゃんともなんだかんだと会ってないな。次回こそ会えるといいな」 「そうだな」 類が正樹にそう言いながらも、息子のために食べ物をとりわけていて、空も嬉しそうにパパに寄り添っている。 「それにしても近藤と明の子供は同級生か! 楽しくなりそうだ」 「そうだな、陸斗。俺の嫁と一緒に頑張ってくれよな」 「うん、近藤君のところと一緒なんて心強いなぁ、またお家にお邪魔しに行くね」 「おう、つわり収まったら遊んでやってくれ」 最初の挨拶と感動の妊娠話のおめでたいことの後は皆、思い思いに過ごし、本日の主役のはずの双子は大人しく寝ていた。 ふと海斗は類の視線に気が付き、類を見た。 「ん、類、どうしたの?」 「みんなが幸せに過ごして、俺の隣にはいつも海斗と空がいるって、幸せだなと思ってた」 「そうだね。僕にはいつも類と空がいる。本当に幸せだよ」 海斗と類が見つめ合っていると、いつの間にかみんなに視線に気が付いた。 「うわっ、なに!?」 「いや、お前らなんかキスでも始まる雰囲気だなって。空の前で変な空気感出すなよ、西条が真似したら教育に悪いからな」 近藤が類と海斗の熱い雰囲気に、空の目を塞いで笑っていた。空もいつもパパとママはラブラブだよって、近藤に説明している姿が思わず可愛くて、海斗は空を抱きしめた。 「はは、確かにね。司ったら僕たちカップルに対抗意識すぐ燃やすからね」 「間違いないな! はは」 そんな風に笑いあって、みんなで楽しく過ごした。 こうやって家族が増えて、これからもこんな楽しい会をするのが定番となり、毎年この時期になると、なぜか真山家の廊下には無駄にレッドカーペットが敷かれることになった。 密かにそれを楽しみにする海斗たちだった。 ――幸せなその後 fin―― *** この物語は「運命を知っているオメガ」から考えたストーリーでした。正樹というひとりのオメガに恋をして、そして見事に敗れた類。当て馬として前作で活躍した類にも光を与えてあげたいなという想いから、海斗という当て馬を経験した男と恋に落ちる、そしてバースに惑わされない真実の愛を見つける。そんな二人の美しい愛の物語として考えた「運命を知りたくないベータ」お楽しみいただけましたでしょうか? 前作は少しハチャメチャだったので(笑)この作品は真面目にそして愛に溢れた世界にしたくて、美しい海斗と類という二人の世界を作り出しました。 たくさんのスターやコメント感謝いたします。そして番外編までお読みくださり、本当にありがとうございました♪ ☆riiko☆
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