19人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当の不死者ならこんな怪我数分も経てば治る。大体寿命がない。俺は長いだけでいずれ死ぬって、バァ様にも言われてたの知ってるだろ」
バァ様の朗らかな笑顔を思い出す。湯呑に入ったお茶をすすり、当時六歳だった俺に世間話のように話したバァ様。
そんなバァ様も、去年この世を去った。享年は不明だ。
永井家の者は代々不死者の出来損ないであるらしく、程度の差はあれど全員が長生きしていた。
全てを承知で嫁いできた母も、俺が生まれて間もなく家を出ていった。
父は仕事人間だったので、実質俺はバァ様に育てられたようなものである。
俺が生きている間には死ぬまいと思っていたバァ様が死んだことで、自分が出来損ないであることをよく理解した。
「それに俺はあのとき確かに死んでいた。死体だったんだ。不死者ならそんなヘマはしない」
「ただの人間ならもっとちゃんと死んでるよ」
日本語が妙におかしい。サキは時々、わざとわけのわからない言い回しをすることがあった。
ようやく左腕が回復した。握り拳をつくり、開く。その行為を数回繰り返す。
右腕は既に完治しており、捻れて内側に回っていた肘はサキに向いている。
体を起こし、簡易ベッドの縁に腰かける。
薄いベッドは体を固くする。両腕をあげてうんと伸びをした。そのまま手を組み右に左に動かす。
床の上でぶらぶらと足を揺らしながら、自分をこのような目に遭わせた橋木について考えた。
最初のコメントを投稿しよう!