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2話
「――んん……んー?」
聞き慣れたアラーム音が微かに耳に届いた。段々大きく聞こえ始めるそれに、否応なしに意識が浮上させられる。
最後の抵抗とばかりに目を閉じたままスマホを手探りで探すけど、手で触れる場所には無いらしい。
「もう……どこよー……」
少し体を動かして手当たり次第に探してみても、やっぱりどこにも無い。
まだ眠いからもうちょっと寝たいのに……
見つからないスマホを恨めしく思いながら、鳴り続けるアラームを止めるために渋々重い瞼を開けると、目に入ってきたのは見知らぬ壁と見知らぬ天井だった。
「え……? ここどこ!?」
自分の部屋じゃない事に驚いて飛び起きると、寝ているベッドも見知らぬ物。
ぐるっと室内を見渡して、どうやらどこかのホテルということは分かった。
「何でホテルで……あ……」
昨夜の嫌な記憶が鮮明に蘇った。そして同時に、バーで課長に偶然出会ったことも思い出す。
――そうだ、あの時。
俺と確かめてみるか?――そう言われて、何も答えられないまま課長と一緒にバーを出て……
「まさか……!」
ガバッと布団を捲ってみる。するとそこには、上着こそ脱いでいるけどそれ以外は全て身につけている自分がいた。
「あれ……? 服、着てる……?」
どういうことだろう?あんな言われ方したし、てっきりそういう事だと思ったんだけど……
「もしかして、揶揄われた……?」
だとしたら、余りにも酷い揶揄い方じゃない?仮にも彼氏にフラれた後なのに。
「でも……課長そんなことするタイプじゃないと思うんだけど」
仕事は真面目だし、落ち着いた大人の男性って感じだから、いくらお酒が入ってたと言っても、部下をそんな風に揶揄って楽しむタイプじゃないと思う。
「――ということは、つまり……抱く気にもならないぐらい、私に色気が無かったってこと、だよね……」
確かめるかって言って、あんな風にバーを出た課長すらその気にならないとは……
「あはは……キッツイなー……」
ジワっと目に涙が浮かんでくる。
これならまだ、揶揄っただけって言われた方がマシかもしれない。
いや、分かってたよ?自分に色気が無いのも、女としての魅力が無いのも分かってたよ?だけどさ……
「1日で2人にフラれるって……」
しかも1人は上司だし。これからどんな顔して仕事すれば……
――仕事?そうだ、仕事!今日休みじゃないし、今日中にやらないといけない仕事あるから、会社行かなきゃ。
「一回家に帰りたいけど、時間あるかな」
時計を確認すると、今から急げばシャワーを浴びて着替える時間はありそうだ。
「――よし!」
もうこうなったら、仕事の鬼にでもなって全部忘れてやる!
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