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「話は全員が集まってから話す! 今日はとっておきのネタがあるんだ」
山を切り崩して作られたこの小学校は当然山に囲まれている。時折、野性の動物が運動場に現れたりするぐらいだ。たぬきは珍しくないけど、人里を下りてきた熊も出るから裏山には行くなと言われている。それでも、小学校に入ってからずっとここで遊んでいるけど一度だって見たことないから、大人たちが嘘をついているんだと思っている。
やがて、菜々と理央が一緒に来た。
「彰吾はまだ?」
誰か知らないかと思って聞いてみると彰吾と同じクラスの理央が答えた。
「あいつ今日日直だから日誌書いてたよ。先生に出したら来ると思う」
「なんだよー、早く話したいのに」
目の前にあった木に登って、適当に座った。
「奏正くん、なにか良いことでもあったの?」
菜々が控えめに訊いてきた。
「そうなんだよ! 今日さ六年生が話しているを聞いて……。ってまだ喋んねぇよ! 全員が集まってから喋るから!」
興奮している自分が抑えきれなくって、もう一段と高い枝に登った。高いところに登るのは楽しい。小さい頃はみんなで木登りして、誰が一番早くてっぺんまで登れるか競争していたのにいつの間にか女子が参加しなくなった。服が汚れるからとか、スカートだからと言ってるけど、そんなもん気にしてたら外遊びなんにもできないじゃんって思う。
「別にもったいぶることないじゃん。今話しても一緒でしょー?」
木に登った俺に聞こえるように理央が声を張って言ったけど、俺は口を固く閉じた。みんなの驚いたり、一緒に興奮する顔が見たいのだ。理央がため息ついて、菜々と宿題を始めた。それに続いて瑞希もランドセルを開ける。その様子が面白くなかった俺は、さらに上へ登った。
しばらくして、彰吾が裏門を通ったところが見えた。でかい声で呼びかけてみたけど、どこから呼ばれているのかわからなかったようでキョロキョロしていた。試しに走れよと叫んでみたけど、少し駆け足になるだけで全速で走ってくれなかった。
「彰吾おっせぇよ!」
「奏正うるさいんだよ。俺が日直だってこと理央から聞いてなかったのかよ」
彰吾のその言葉に返事せず、木から飛び降りた。それにビビった菜々が小さく悲鳴をあげたが、それも無視した。
「奏正がなんか話したいことがあるんだって」
全員が揃ったところで、宿題をしていた三人はそれを片付けた。
「どうせしょうもないことだろ」
誰も俺の話に興味を持っていないのが面白くなかったけど、そんなことどうでも良かった。きっと俺の話を聞けばみんな顔色を変える。手招きして、全員を集めた。他に人も居ないんだし、でかい声で喋っても良かったけどこういうのは雰囲気が大事だ。
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