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「あのな、実はこの裏山のどこかにツリーハウスがあるらしいんだよ」
「ツリーハウスってなに?」
同じように小さな声で菜々が訊いてきた。俺が答えるよりも早く、彰吾が答えた。
「木の上に建てる小さな家のようなものだよ。ていうか、奏正もなんでそんな話信じてんだよ。あるわけないだろ」
「だからあるんだって! 昔高校生たちが自分たちの秘密基地として作ったのが残ってるらしいんだよ」
みんな俺を疑うような目をして、お互いを見つめあっていた。なんで誰も信じてくれないんだよ。みんな何も言わずに黙っているから、ついまくし立てるように叫んでしまった。
「本当だって! 一緒に登校している六年生の兄ちゃんたちが作ったらしいんだよ」
「そんなの本当かどうかわかんないじゃん。それにもし見つけたとしてどうするの?」
理央が飽き飽きとした顔で言った。
「俺たちの秘密基地にするんだよ! 絶対楽しいって。みんなで探そうよ」
俺だけが必死になって話しているのかと思ったら、一人だけ話に乗ってくれた。瑞希だ。
「本当にあるなら、僕も見てみたいな……。それにみんなで何かを探すっていうのも楽しそうだし……」
「私は反対だよ。もしそこを使っている時に高校生が来たらどうするの? 怒られちゃうかもしれない」
ついに菜々まで反対してきた。期待していたのと全然違う反応が返ってきて、面白くなくなった俺は瑞希の腕を掴んでみんなに背を向けた。
「だったらいいよ! 俺ら二人だけで探すから!」
そう言ってズカズカと森の奥に入っていくと理央がでかい声で呼び止めてきた。
「あんたバカでしょ。二人だけで森の中入るなんて危ないじゃん」
「お前ら興味ないんだろ。だったらほっといてくれよ」
「違うって。今日だけ探すの手伝うから、もし見つからなかったら諦めて。二度とこの話はしない。それでどう?」
まるで取引のようなその言葉に悩んだが、理央の後ろに立っていた二人もそれで納得しているらしい。今日だけで見つけられる自信はなかったけど、五人で探せるのならとオッケーした。みんなで柵の近くにランドセルをまとめて置いて、スマホだけをポケットに入れた。全員の姿が見える範囲で移動して探すという彰吾がつけた条件をもとに、いつもなら踏み込まない山の奥へ入っていった。手入れされていないため、草木が覆い茂っている。人の手が加わっていない森は隙間無く木が生えていた。ツリーハウスなんてすぐに見つかるだろうと思っていたのに、なかなか見つからずイライラが募っていた。
「奏正! 少し行き過ぎだ。戻ってこい」
後ろから彰吾に呼び止められていたが、そんなこと無視して突き進んだ。それとなく、人の手が加わったような痕跡のある道が見えたからだ。この先にきっとなにかある。そう信じて進んでみると、予想通りだった。少し開けた場所に一際大きな木が生えていて、その木にすっぽりとハマるようにツリーハウスが作られていた。
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