本編

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「そうだよ、もし高校生が来たら僕ら殴られるかもしれないよ」  さっきまでカードゲーム見つけて、一人で盛り上がっていたくせに瑞希が怯えている。 「私も人が使ってた場所で楽しく遊ぶなんてできない。 「理央までなんてこと言うんだよ! いいじゃん。高校生が来たら来たで俺たちがすぐに帰ればいいだけだろ? ほら、高校生って忙しいって聞くし、来ない可能性だってあるじゃん。それにここを作ったのが高校生のときってだけで、今はもう大人かもしれないじゃん!」  まくし立てるように、俺が勝手に想像したことを叫んだ。たくさん叫んだせいでちょっと息切れした。だが、みんなの顔を見ても誰も納得していない様子だった。せっかく俺がいい遊び場を見つけたってのになんだよ。なんでそんな困った顔するんだよ。これじゃあまるで、俺が悪いことしてるみたいじゃんか。もっともっと叫んでやりたい気持ちを抑えつけるように、拳を握った。爪は切っているから痛くない。でも、誰も俺の相手をしてくれなくって悔しかった。 「奏正、二つ提案があるんだけど」  真面目な顔をした彰吾が、まっすぐ俺の目を見て言い出した。なんだよと詳しいことを急かすと、みんなを集めて話し始めた。 「要はここに高校生が絶対に来ないって確信できれば、みんな安心して遊べるんだろ? だったら一定期間奏正一人でここに通い続けて、本当に誰も来ないかを確かめる」 「こんな山の奥まで一人で来るのは危ない。それになにかあっても誰も助けられないよ」  理央が冷たい声で言い放った。 「そうだよ、だからこれが二つ目。奏正が噂を聞いた六年生に直接、話に出てきていた高校生たちが今どうしているのかを訊くんだ」  そんなもの知ってどうするんだと思っていると、理央が同じことを口にした。 「もしかしたら、もう高校を卒業して大学に行ってたり働いたりしているかもしれないだろ? もしそうだったら、ここに来る可能性はほとんどゼロだって言っても良いんじゃないかな」 「確かに、それだったら安心して遊べるね」  いつもはそんなに話さない菜々も納得していた。ビビリの瑞希も首を縦に振っている。理央もそれが一番良いと言い始めた。これで話がまとまったと思った彰吾が両手を合わせるように叩いた。 「じゃあ、奏正。そういうことだからお前が行動しない限り誰もここには来ないからな。あと、絶対に嘘はつくなよ」 「嘘なんかつくわけねぇだろ!」  彰吾は冗談だと笑っていたが、俺はそうは受け取れなかった。だが、これで何をすれば良いのかも決まった。明日、登校するときに聞けば良いだけの話だ。もしかしたら、母さんが知っているかもしれない。いつの間にか、窓から夕日が差し込んできていた。木々の隙間から間接的な柔らかい光が入ってくる。彰吾のスマホのアラームが鳴った。
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