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プロローグ
「本日の最高気温は三十五度となります。みなさん熱中症には気をつけて、しっかりと水分補給しましょう」
お天気お姉さんがはつらつとした声で今日の天気を伝える。最高気温三十五度と聞くたびに思い出すことがある。当時、天気予報なんて気にせず過ごしていた小学生の頃だ。雨が降る日は母が傘を持たせてくれた。猛暑日にはいつもより大きい水筒を持たせてくれた。学校に着くと、朝の会で先生が熱中症の予防を呼びかけた。
それでも、どんな天気だろうと僕らの放課後の過ごし方は変わらなかった。だから、母の気遣いにも気づかなかったし、先生の忠告にも耳を傾けなかった。
だが、あの日の悲劇に気温は関係ない。きっと冬であっても同じようなことは起きていただろうし、どんなに頑張ったって防ぎようのない事故だったって言える。やむを得ない選択だったって納得している。それでも、もっと他に手はあったんじゃないかと考える日がある。
あの悲劇から九年。今年で俺たちは成人する。小学校を卒業して以来、あのメンバーとは会っていないが成人式で会えることを祈って今日も出勤した。
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