『付き合ってくれないなら、死んでやる。』

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ピンポーン………コンコンコンッ 「え、な、なにっ」 玄関先から届くインターホンの音。直後、扉が三回軽快なリズムでノックされる。気軽に家へと招く友人など居ないし共働きの両親が平日のこの時間帯に何の知らせもなく来訪するわけがない。宅配便の可能性も低い。 ピンポーン……コンコンコンッ ピンポーン…コンコンコンッ ピンポーンコンコンコンッ ガチャッ、「は、はい、」居留守を決め込もうとしたが全く帰る気配のない相手の呼び出しに恐怖さえ感じ結局ドアノブを手にした。押しに弱いのだ、俺は。 「あぁ。良かった、生きてた」 「は、はい…?」 扉の隙間からそっと顔を覗かせると、目の前に綺麗な鎖骨が現れた。そのまま目線を上へと移動させると、来訪者と目が合った。長い睫毛に縁取られた金色の瞳がこちらをじっと見つめている。 「さっきドンッって、大きな音が鳴ったから。何かあったのかなって心配になって」 隣はもう半年以上、空き部屋だった…はず 「あ、突然ビックリしますよね。俺、昨日隣に引っ越して来た草壁 真陽です。よろしくお願いします」 「あ、や、矢野まおりです…」 そっと差し出された大きな手を恐る恐る握り返すと、ぎゅっと握り返された。男らしく節くれた大きな手は湿った俺の手と違いひんやりと冷たかった。 「それじゃあ俺これから学校なのでもう行きますね。突然すみませんでした。」 最後にニコッと頬笑みを浮かべ黒いリュックを背負い直すと草壁真陽と名乗った隣人さんは去って行った。学校という事は学生か…服の上からでも分かるほど発達した筋肉に覆われた身体は180をゆうに越えていそうだ。長い手足に、健康的な褐色の肌。まだ引越して来て一日しか経過していないにも関わらず、隣人の心配をして態々訪ねてきてくれるなんて、見た目だけでなく中身までもが完璧な青年だな。そんな事を思いながら遠ざかる背中を見送った。
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