Bloody, Blow, Twilight

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Bloody, Blow, Twilight

種を蒔いている。何が実るか、無事に育ちきるかは知らない。 それでも、ひび割れた大地に種を蒔いている。 「メグさん。今日はどうですか」 ボロボロの端切れをまとった少女が、怖々と声をかけてくる。考えるより先に「まだわからない」と答えていた。 各地に発生し、自然と人を、ところ構わず蹂躙する「血の嵐」。それが、この世界の支配者だ。雨風に襲われればたちまち、穴という穴から血が噴出して死ぬ。 近付くと、血生臭い風が強まる。だから私たちは生ぬるい風をかぎ分け、見渡す限りの荒野を、血臭が薄い方へひたすら逃げている。 どこの土も痩せ、作物が育たない。太陽は、いつからか沈まなくなった。 けれど、私が毎日「腹を痛めて産み落とす、握りこぶし大の種」だけは、どこに植えても数時間で育ちきる。水も日光も不要だ。 ただし、何が、どのくらい採れるかはわからない。 野菜や果物が幾つか実ることがほとんど。たまに石ころや、木の枝になる場合もある。 そういえば昔、羽の生えた馬が成った時もあった。一日で死んだけど。その背にまたがり、ずいぶん長く、自由に飛んだ。 それからは、何が育つかわからないのが「不安」ではなく、「楽しみ」になった。 「みんな、メグさんに感謝しています。嵐に襲われるより先に、餓死すると思ってたから」 少女が隣で座り込む。「みんな」とは、私に救いを見出し、集まってきた十人の難民たち。少女を除く九人は、近くの岩陰でじっとしている。 無害だが、有益でもない。口数少なくついてきて、たまに食べ物をせがんでくる。 「けどメグさん、本当は一人で早く、遠くへ逃げて、自分のために生きられるはずですよね。ごめんなさい」 唐突に詫びられる。 ああ、この少女だけは違った。小さな体で危険を冒し、血に汚れていない、貴重な飲み水を手に入れてきてくれるのだ。 「なら、一緒に来る?」 「いいえ。足手まといになるし、みんなもいるから」 「あなたが面倒見る必要ある?」 「悪い人たちじゃないし……」 少女は笑った。「世界はきっと、今に終わるから」と。 ごもっともだ。 鮮血色の地平線を眺める。遮るものがないから、目指すべき当てがないとわかってしまう。救いがないことも。 不意に、腹が痛む。放っておけばまた産まれるだろう、何かの種が。 無事に育った姿を見届けるのが楽しみだ。それだけが、私の生きがい―― 「血の嵐だ!!」 背後から悲鳴が上がる。岩陰にいた人々が、血相を変えて走ってくる。赤い雨に追い立てられて。 こんなに近くまで来ているのに、何の臭いも音もしなかった。いや、今もだ。 訳を考えるより先に体が動く。 「逃げなきゃ!」 少女の手を掴んだが、石のようにずっしり重い。眼差しは、彼方に縫い付けられたまま。 「どこへ? 助かったとして、どうするんです」 手から力が抜ける。 私もわからない。逃げて、助かるのは、間違い? しかし、迷ったのは一瞬のこと。逃げ遅れた一人が、血の雨に打たれてドロドロに沈んでいくのを見たら、じっとしていられなくなった。 少女を抱え上げる。一歩踏み出すのもやっと。こんな進みじゃ、私たちも長くはない。 『かえりますか? それとも、かえりますか?』 焦って回らない頭に、妙な問いかけをねじ込まれる。意味不明だ。二つの「かえる」に、何の違いが? 『あなたも、土に還りますか?』 今度は手元から声。 虚ろな眼差しの少女が、私にそう尋ねていた。明らかに様子がおかしい。 首を横へ振り、もう一歩前へ。ごうごう。すぐ背後に雨と風の気配を感じた。「もう終わり」と「嫌だ」が同時に逆巻く。 理不尽だ。私たちが何をした。他人のために生き続けてきたのに。 「還らない! 私も、この子も! まだ、」
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