4人が本棚に入れています
本棚に追加
その日から僕ら夫婦は、朝食は自分の分をそれぞれ作ることになった。
相変わらず僕は目玉焼き、真理はスクランブルエッグ。それは変わらないけれど、変わったことがある。
「ちょっと、目玉焼きまだ!?」
「ちょっと待って、あとちょっとで焼けるから! ほら、もうすぐ黄身がいい感じに」
真理が僕に横から体当たりする。僕は少しよろける。
「混ぜれば早いじゃん」
「バラバラがいいんじゃん」
僕たちは少し睨み合ったのち、
「まぁそれぞれよね」
「そうだね。あ、焼けたからコンロ交代ね」
「はいはい」
と言い合う。
そう、コミュニケーションが明らかに増えたのだ。
目玉焼きをさっと皿によそうと、真理はあらかじめ混ぜておいたたまごをフライパンに流す。じゅうと音がする。
うちはコンロが狭いから、一人ずつ料理しなくてはならない。だから、交代しなくてはならない。
でもそれが良いのだ。この狭さが、二人をより近づけてくれた気がする。
「できた!」
真理が自分の皿にスクランブルエッグをよそう。
「じゃ、食べよっかね」
「そうだね、真理」
「なんだよ、悠介」
久々に名前を呼んでくれた気がする。真理はまた僕に体当たりする。僕は目玉焼きを落としそうになる。
機嫌をとるためのケーキなんてもういらない。ちゃんと真理の気持ちに寄り添って、考えてみせる。
世界で一番大好きな人は、僕ににこっと微笑んだ。
最初のコメントを投稿しよう!