朝食たまご戦争

5/5

4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 その日から僕ら夫婦は、朝食は自分の分をそれぞれ作ることになった。  相変わらず僕は目玉焼き、真理はスクランブルエッグ。それは変わらないけれど、変わったことがある。 「ちょっと、目玉焼きまだ!?」 「ちょっと待って、あとちょっとで焼けるから! ほら、もうすぐ黄身がいい感じに」  真理が僕に横から体当たりする。僕は少しよろける。 「混ぜれば早いじゃん」 「バラバラがいいんじゃん」  僕たちは少し睨み合ったのち、 「まぁそれぞれよね」 「そうだね。あ、焼けたからコンロ交代ね」 「はいはい」  と言い合う。  そう、コミュニケーションが明らかに増えたのだ。  目玉焼きをさっと皿によそうと、真理はあらかじめ混ぜておいたたまごをフライパンに流す。じゅうと音がする。  うちはコンロが狭いから、一人ずつ料理しなくてはならない。だから、交代しなくてはならない。  でもそれが良いのだ。この狭さが、二人をより近づけてくれた気がする。 「できた!」  真理が自分の皿にスクランブルエッグをよそう。 「じゃ、食べよっかね」 「そうだね、真理」 「なんだよ、悠介」  久々に名前を呼んでくれた気がする。真理はまた僕に体当たりする。僕は目玉焼きを落としそうになる。  機嫌をとるためのケーキなんてもういらない。ちゃんと真理の気持ちに寄り添って、考えてみせる。  世界で一番大好きな人は、僕ににこっと微笑んだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加