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⑨
執拗に襲ってくるカラスを、俺はハンマーで応戦していた。
トレーナーの片腕は、ボロボロになり血も滲んでいた。
「クソッ!いてーよ!」
痛みに顔を歪めた時、ノアールが俺の手から滑り落ちた。
カラスは、すかさずノアールに飛び掛かる。
「やめろ〜っ!」
俺が叫んだ瞬間、握っていたハンマーが黒いモヤに包まれた。
「何だ?」
モヤが晴れると、ハンマーは俺の身長ほどに巨大化し、漆黒色に変化していた。
「でかっ!色も変わってるし」
俺は漆黒のハンマーを振り上げ、カラス目掛け振り下ろした。
「ギャッ!!」
カラス達は声を上げると、呆気なくスーッと消えていった。
「大丈夫か?」
俺はノアールに駆け寄り声を掛けた。
ふと見ると、卵にヒビが入っている。
「カラスにやられたのか…」
俺は崩れるように膝を付いた。
「ごめん…守れなかった…」
その時、目の前にニョローンが現れた。
「エクセレントポイント!!」
ニョローンから、紙吹雪が舞い散る。
「エクセレントポイント?」
呆気に取られていると、ノアールの声が聞こえてきた。
「エクセレントポイント!やったぞ!リウ!最高ポイントだ!」
ノアールに目を向けると、卵全体にヒビが入っていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。孵化が早まったらしい。我は今から孵化する」
宣言直後、卵がはじけ殻が飛び散った。
現れたのは、身長20cmほどの美少女だ。
「ノアール…女子だったのか?男かと思ってた」
「失礼だな。我はれっきとした女だ!」
ノアールは胸を張って断言した。
真っ白な肌に、大きな瞳。
髪は、艶やか黒色でサラサラのロングヘア。
黒くフリルをふんだんに使用した使用した、裾が広がったワンピースを着ている。
いわゆるゴスロリだ。
「こんなに可愛いのに、性格や話し方は変わらないんだな」
「我は変わらぬ。これからもな」
俺はノアールが、無事に孵化してホッとしていた。
「とにかく、無事に孵化して良かったよ。カラスはヤバかったけど」
「リウ…我を守ってくれて感謝する」
「いや、別に…気にしなくてもいい。そう言えばハンマーは、なんで巨大化したんだ?」
ノアールは首を傾げ考えると、頭を振った。
「我にも分からぬ。しかし、リウの心が関係しているように思う」
「俺の心?」
ノアールは頷き言葉を続けた。
「我を助けようとする気持ちが奇跡を起こし、ハンマーに魔力が宿ったのかもしれない」
「そうなのか…」
「その結果、エクセレントポイントを叩き出したのだからな」
そう言えば、ニョローンがエクセレントポイントとか言っていた気がする。
俺は首を傾げながら、ノアールに聞いた。
「エクセレントポイントって何だ?」
「エクセレントポイントは、最高ポイント加算となる。今まで人間で、エクセレントポイントを叩き出した者はいない。リウのおかげで、我は一気に巻き返し最高ポイントを得て、この姿に孵化できた」
「一発逆転したわけか…」
ノアールは頷くと、俺をジッと見つめた。
大きな瞳を一瞬揺らし、そっと目を閉じる。
「リウ…我は行かねばならない…」
「え!もう行くのか?」
「ああ…我らは孵化をすると、すぐに帰らねばならない。そういう決まりだ…リウ、感謝する。元気でな」
「おい!待てよ」
ノアールは、俺の言葉を振り切るようにフッと消えてしまった。
数日後、俺は桜並木を歩いていた。
桜はすっかり散り、葉桜になっている。
「あれから一週間以上経ってるもんな〜」
ノアールの事は、夢じゃないかと思う時もある。
巨大化したハンマーは、気付いたら元の姿に戻っていた。
ピンク色から緑色に変わった桜を見ながら、歩いていると、後ろから声が聞こえてきた。
「おい!そこの人間!」
聞き覚えのある声だ。
俺は、ゆっくりと振り返る。
「おい!人間!お前の事だ!」
目の前に、ゴスロリノアールが現れた。
「ノアール!帰ったんじゃなかったのか?」
ノアールはフワフワと飛んで来ると、俺の肩に座った。
「リウ!喜べ。戻ってきてやったぞ」
相変わらずの上から目線。
俺は思わず笑った。
「リウ、今からどこに行く?」
「バイトだよ」
「そうか。我も行くぞ。リウの仕事ぶりを見学してやる」
「は?連れて行くわけないじゃん。ノアール見たら、マスター驚くだろ」
「安心しろ。我の姿は、リウ以外見えん」
「へえ〜そうなんだ。それならいっか〜なんて言うわけないだろ!」
俺はノアールを肩に乗せ、言い合いしながらバイト先に向かう。
ノアールが戻って来て、喜んでる自分に気付かないふりをしながら…
おわり
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