621人が本棚に入れています
本棚に追加
2 皇太子の帰還
英雄様と呼ばれる者は、決められた日程で毎日を過ごしている。
朝晩、二度の礼拝。
週に二回、午前中に政治や商学、外交についての座学がある。
午後は剣術の授業があり、本を開いて兵法を学ぶ時もあるが、ほとんどが実戦だ。
貴重な存在なので、実際に戦場に出ることはないが、訓練は続けられていた。
ただ、ヘルトとルキオラは上達度が違い過ぎるので、授業は個別に行われていた。
そしてもちろん、英雄様としての仕事もある。
神殿の行事に地方の神殿への参拝、救護院や孤児院への訪問、皇家主催の催事、貴族のパーティーに出ることもある。
しかし、力の差が出始めてから、神殿はルキオラをあまり外へは出さないようになった。
特にパーティーなどの華やかな場所に出るのは、いつもヘルトだった。
どうしても出ないといけない神事などで二人で行動する時も、別々の馬車に乗って移動するので、現地で対面するくらいで、顔を合わせても会話することはなかった。
鏡に映った自分の顔を見ながら、ルキオラはなんてひどい顔だろうと思いながらため息をついた。
「どうしたんですか? さっきからため息ばかりですね。何か心配事ですか?」
部屋の掃除をしていたウルガが、箒を持つ手を止めて話しかけてきた。
鏡台前に座って、鏡の中の自分と睨めっこしていたルキオラは、自分の頬を指でつまんで引っ張った。
「ひどい顔だと思って。目の下が黒いし、口角が下がっている。この前は陰気な顔だと笑われたけど、その通りだと思うよ」
「そんなことを……っ、まさか、女神ルナの化身だと言われているくらい、私には美しく可憐に見えます」
「ヘルトはね、そうだと思うよ。だけど私はダメだ。何をやっても上手くできない。自分の愚鈍さが顔に現れているよ」
そう言うとウルガは苦い顔になってしまった。
ここに来て日も浅く、神殿の常識もまだ分からないウルガに、こんなことを言っても困らせるだけだとルキオラは自嘲した。
「口の横のホクロも、本当に嫌いだ。前世の罪だと笑われる度に、切り取ってしまいたくなる」
「ルキオラ様……」
最初のコメントを投稿しよう!