2 皇太子の帰還

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「ごめん……変なことを言って……。私は少し、おかしいんだ。忘れて」  檻に閉じ込められたような環境で、鬱屈された思いは日に日に心を蝕んでいった。  ルキオラが悲しそうに笑うと、ウルガは息を呑んでから箒を壁に立てかけた。 「私は元々、地方の出身で、その地域ではホクロが前世の罪の数などという話は聞いたことがありません」 「へぇ……、それなら、どう教わったの?」 「それは……」  ウルガが何か言いかけた時、ドンドンとドアが強く叩かれた。  ウルガが慌ててドアに駆け寄って応対に出ると、中に入ってきたのは、ヘルトの従者をしている神官見習いの少年だった。 「礼拝堂に集まるように、神殿長からの伝言だ」  ヘルトから何を吹き込まれているのか分からないが、敵意剥き出しの目でルキオラを睨んだ後、返事も聞かず少年はさっさと部屋を出て行った。 「何だ……あの者は……ルキオラ様に無礼なっ」 「ウルガ、そろそろ慣れただろう。ここでは神官から下働きまで、みんな私にはあの態度だ。ヘルトが完全体になれば、私の力は吸収されるだろう。みんなそれを待っているんだよ」  ルキオラが悲しそうに目を伏せるのを、ウルガは何も言わずにじっと眺めていた。  心が千切れそうな気持ちになることは何度もある。  でも先ほどの知らせはきっと、間違いなくあの人だと分かったルキオラは、力を取り戻して椅子から立ち上がった。 「早く行こう。あの方が帰ってきたんだ」  萎んでいた花が急に咲いたので、ウルガは驚いた顔をしていた。  一刻も早く会いたいと、ルキオラは逸る気持ちを抑えながら、礼拝堂へと急いだ。  背丈の二倍ほどある、女神の姿が彫られた大扉が開かれると、長い椅子が連なった一番奥、祭壇の中央にその人の姿はあった。  白と青の配色で豪華な金の装飾が施された法衣を着ているのがこの神殿の長である、ネブネイル神殿長だ。  彼は先代が存命中に指名されて後継と決まり、先代が亡くなり新たに就任して五年目になる。  その神殿長の前に立って談笑しているのが、帝国の大星、皇太子であるファルコンだった。
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