序章 英雄の子

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 ルキオラは花びらが舞っている外の様子から逃れるように、下を向いて今度こそ目を閉じた。  ウルガは何も言わなかった。  早く、早く終わってくれ。  ルキオラはいつもそう願っていた。  およそ千年前、混沌の世を制圧して、帝国グラディウスを勝利に導いた英雄がいた。  彼の名は誰も知らない。  ただ、英雄と呼ばれた彼が死んだ時、人々は悲しみに暮れて、また元の世界に戻るのではないかと恐怖と混乱に包まれた。  世界を創生した女神ルナを崇める帝国のルナ神殿では、代々長にあたる者が女神の言葉を神託として受けることができた。  汚れのない魂を持っていた英雄は女神に愛されていた。  英雄が死んだ後の神託では、英雄の死を悼んだ女神が、百年に一度、英雄の魂を蘇らせてその日に生まれた子に宿すとされた。  その子が生きている間は、女神の加護により、国の平和、富と繁栄は約束される。  だがそれは百年に一度のことなので、英雄の子を大切にしなさいという神託だった。  こうして百年に一度、帝国グラディウスでは、魂下ろしという儀式が行われて、その時に生まれた子には、英雄の魂が宿った印が発現した。  その子は英雄様、英雄の子と呼ばれ、神殿に保護されて大切に育てられる。  英雄様となった子は、英雄と同じ力が使用できて成人までに完成される。  成人を迎えるとその力は徐々に消えてしまうが、その者が生きている限り、平和な世は約束される。  しかし、女神の加護があっても力をなくした英雄様は人と同じ寿命で死んでしまう。  英雄様が死んだ後は、暗黒期と呼ばれて、次の英雄様が誕生するまで耐え凌ぐことになる。  飢饉に災害、戦争、数々の困難が国を襲い、人々はますます英雄様を待ち望み、神殿に信頼を寄せることになる。  今や帝国は皇帝と神殿が二本の柱となって国を支えていた。
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