41 祝福の子

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「貴方はグラディウス帝国の新皇帝でしょう。今まで皇帝が行ってきた惨劇の後始末を、それで済ませるおつもりですか?」  ジリジリと貴族達が近づいてきて、ファルコンは壁を背中にして逃げ場所を失い、目を泳がせていた。 「あ……、それは……る、ルキオラ!」  焦った顔のファルコンは、ルキオラを見てきたので、ばっちり目が合ってしまった。 「しゅ、祝福の子だ」  青い顔をして冷や汗をかいていたファルコンは、ルキオラを視界にとらえて、勢いよくそう言った。  その自信たっぷりな様子に、貴族達も顔を見合わせた。 「我が帝国には祝福の子がいる。人々に幸せをもたらすという存在。このことを全面に押し出そう。そして、法を変えてルキオラを私の伴侶とする。祝福の子が支える皇帝、そうなれば国はもっと繁栄する。過去の過ちは、全て邪神に毒された亡霊が仕組んだことだ。祝福の子が私の手元にいるなら、民は歓迎してくれるだろう」  今思いついたことなのか、ファルコンはペラペラと饒舌に語った。  結局祝福の子を利用するという結論に至るところが、父親となにも変わらないと思えた。  それは貴族達もそうで、みんな険しい顔をして息を吐いた。  今こそ、ずっと縛られていたものから離れて、自力で飛び立つ必要がある。  ファルコンにはその発想はないのだと、みんな悲しい目をしていた。 「……ファルコン殿下」 「ルキオラもそれでいいだろう? お前は私のことが好きだったじゃないか。お前の気持ちは知っていたんだ。だが、立場ゆえ気持ちに応えることができなかった。皇帝となり、その足枷はなくなった。愛しているルキオラ、私の側で、伴侶として大切にする」  ファルコンの口から愛を語られても、ルキオラの気持ちは少しも揺れなかった。  むしろ、悲しくなって胸が締め付けられた。 「……ファルコン殿下は、ヘルトが恋人だったのではありませんか?」 「ヘルト? まさか! ヘルトは良き友人だった。亡くなってしまったのは残念だが、もうどうしようもない。さぁ、ルキオラ。私の元に来るんだ」  ファルコンはルキオラに向かって手を差し出した。  ルキオラはその手を見て、ずっと手を伸ばして欲しいと思っていた以前の自分を思い出した。  何度も想像して憧れていた光景が今目の前にある。  ルキオラは息を吐いてから、決意を込めた目をファルコンに向けた。
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