41 祝福の子

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「何をやっている!? 敵国のスパイだぞ! どうして誰も動かないんだ! 今すぐこいつを始末しないと……。祝福の子を奪い去るつもりだぞ! おい! 誰か! 捕まえるんだ!」  髪を振り乱して叫ぶファルコンに、近づいたのは反対派のトップだったマクベス公爵だった。  冷静に足を進めたマクベス公爵は、ファルコンのすぐ目の前に立った。 「隣国のスパイが潜入していたのは、由々しき事態ですが、我々帝国民は、それよりももっと、解決しなければいけない事態が目の前にありますので、今そちらはどうでもいいのです」 「なっ…なっ……正気か!?」 「二十年前のエイレンで起きた大火、私は弟を亡くしました。彼は明るくて家族の中心で、私よりもずっと賢かった。それを……あんなに苦しませて……絶対に……許さない。私のような者が帝国にどのくらいいるとお思いか!」 「だから、そんなのは……知らない! おいっ! ジャック、レイモンド! 隣国のスパイとルキオラを捕えろ!!」  礼拝堂の入り口には、ファルコンの側近である皇宮騎士団長とその部下が立っていた。  命令がないので一歩も動かず、事態をずっと眺めていた騎士達はようやく口を開いた。 「二十五年前、イムサ地方の大洪水、橋の崩落で私は妻と子亡くしました……。隣村から救助部隊が駆けつけて、皇帝の迅速な対応に感謝しましたが、妻と子は帰って来なかった……」 「私もです。両親は私を産んですぐに、ヤム村で疫病にかかって命を落としました。皇帝が薬を届けてくれたことで、被害は一つの村で収まった……、だけど、私の両親は……」 「待て! 待て! だから知らない。私に責任はない。神殿長だ、アイツを殺せ!」 「それは無理です。貴方はこの国の皇帝。帝国が行ってきた犯罪の数々、すべて明らかにして、償っていただきます」  ファルコンは声にならない声を上げて、頭を地面に打ちつけた。  かつて慕っていた人が苦しんでいる姿は、もう見限ったとはいえ悲しい光景だった。  厳密に言えば、皇帝と神殿長が行った多くの悪行なので、息子のファルコンは極刑まではいかないかもしれない。  しかし、これから多くの罪について、数え切れないくらいの裁判が行われて、ファルコンはその矢面に立たされることになる。  皇帝の血は悪だとなれば、ファルコンは皇位を引き摺り下ろされて、どうなるかも分からない。
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