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エピローグ前編 改めまして
月明かりに照らされた山道を、馬に乗った集団が駆けていく。
先頭の黒馬には、二人の男が乗っていた。
月夜に輝く銀髪を靡かせているのは、グランディウス帝国で英雄様と呼ばれていたルキオラ。
英雄様は作られたもので、ルキオラは百年に一度生まれる女神の祝福を受けた子供だった。
それは邪神の力を借りて神になろうとしていた皇帝が死んだ後も変わらず、ルキオラは帝国にとって国の宝であった。
そして、ルキオラを守るように胸の前において、馬を走らせているのは、隣国リッテンタインの王弟であるオルキヌス。
長年の敵国であるグランディウス帝国に、女神の加護により運を味方につけていた帝国の弱点を探ろうと仲間と共に侵入した。
その仲間とは、二人の後ろに続いている、ウルガ、ゴングル、紅一点のジェントだ。
皇帝の死と、英雄様の真相を見届けた後、ルキオラを帝国から奪い、全員でリッテンタインに戻るため、休むことなく馬を走らせていた。
「よし、この下に泉が見える。兵も近くにいないようだから、ここで休もう」
神殿を出てから、何時間も走り通しだったので、誰もが疲れていた。
夜も深い時間となり、森の泉で馬を休ませて、交代で休憩を取ることにした。
「ルキオラ様、水をお飲みください。体を清めたら、着替えましょう。くたびれた服で申し訳ないですがこちらを……」
「あ……うん」
オルキヌスに馬から降ろしてもらったら、すかさずウルガがやってきて、テキパキと身の回りの世話を始めてしまった。
ルキオラも、つい今まで通り世話になるつもりになってしまったが、よく考えたら彼はオルキヌスの部下で、もうルキオラの従者ではないのだ。
ルキオラの視線に気がついたウルガは、照れた顔で笑った。
「ちゃんとご挨拶できずに申し訳ございません。私はウルガ・シュタイナー、リッテンタイン王国、国王親衛隊の隊員であり、騎士団の副団長も務めておりました。王命により、今は弟君であるオルキヌス様に付いております」
「……そうか、やっぱりウルガは騎士だったんだね。乗馬も上手いし、神官見習いより、ずっと似合っていると思っていたんだ」
「恐れ入ります。任務とはいえ、身分を偽っておりました。本当に申し訳ございませんでした」
謝ってばかりのウルガに、大丈夫だと言って背中を軽く叩いた。
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