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干し肉を口に入れられて戸惑っていたら、スッと立ち上がったオルキヌスが、ウルガとゴングルの頭をポカポカと殴った。
「いい加減にしろ! お前達は寝床と火の準備! 今夜は見張りを俺と三人で交代だ!」
「なんで俺までーー」
オルキヌスに首根っこを掴まれて、ウルガとゴングルは連れて行かれてしまった。
ルキオラは干し肉を咀嚼しながら、その様子をぼけっと見てしまった。
神殿を出て、突然訪れた嵐のような時間に、呆然としながら、どう関わっていいのか、今一歩みんなよりルキオラは外にいるような気がした。
すると、今まで食事をしていたジェントがクスクスと笑い出したので、少し驚いてしまった。
「すみません、あんなに楽しそうな親分を見たのは、久しぶりで」
「お……親分……?」
「あ、私、元船に乗せられていた奴隷だったので、親しみを込めてそう呼んでいるのです。変装の腕を買われて親分の部下になりました。いつも死と隣り合わせみたいな目が素敵だなと思っていましたけど、あんな風に満たされて幸せそうな目もいいですね。あ、邪な気持ちはないですよ。私はあくまで、親分を親分として尊敬しているだけです」
ジェントの言っていることが、ルキオラには半分も理解できなかった。
とりあえず、オルキヌスのいい部下であるということだけは理解できた。
「親分と大海原で、海賊のお宝を奪った話、聞きたいですか?」
「え、聞きたい! すごく聞きたい!」
困惑していた表情だったルキオラが、目を輝かせて身を乗り出してきたからか、ジェントは楽しそうに微笑んだ。
「肩の力を抜いてください。大将はもう私らの仲間なのですから。気を使う必要なんてないですよ」
「た……大将? え?」
「さぁ、火の準備ができたみたいですよ。あちらでぶどう酒でも飲んで楽しくお喋りしましょう」
ジェントはとびきり目を引く美人だが、ちょっと変わった人のようだ。
それでも、変に緊張して引いていた線が、ジェントの風変わりな歓迎の呼び名によって、良い具合に消えて気持ちが楽になった。
「ふふっ……あぁ可愛い。食べちゃおうかな」
「え? 何か言いました?」
「いいえ、さぁこちらへ」
なぜか妖しく笑うジェントに手を引かれて、オルキヌス達のいる焚き火の方へ向かった。
国境まで、あと数日あればたどり着くというところまで来た。
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