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涙で声が掠れて、上手くお礼が言えなかったけれど、会いたかった人に会えて、ちゃんと別れの言葉を伝えることができた。
手紙を送ることを約束して、三人は馬車に乗って街道を通って帝都に帰って行った。
「そんな顔をしないでください。付いていくと決めたのは、私なのですから」
最後の村を出てしばらく走ったが、その間、オルキヌスは無言だった。
自分の両親のことを思い出しているのか、オルキヌスは寂しそうで複雑な表情をしていた。
ルキオラはオルキヌスの顔を見上げて、慰めるように声をかけた。
「俺は……ルキオラを離したくはないが……悪いことをしたような気持ちだ」
「何を言っているんですか。オルキヌスのおかげで、ちゃんとお別れができて、感謝しているくらいです」
「ルキオラ……」
「それに……私だって離れたくないです。ちゃんと、連れて帰ってください」
「ああ、もちろんだ」
そう言って馬を走らせながら、オルキヌスは後ろからルキオラ包むように胸の中に入れた。
国境へと向かう景色と、オルキヌスの温かさに触れて、ようやく帝国を離れるのだと実感が湧いてきた。
ルキオラは前を見据えるオルキヌスの顔を見て、トクンと胸が高鳴ったのを感じた。
ウルガとゴングルは先行してかなり前を走っていて、ジェントは離れた後方を走っていた。
今ならちょっといいかもしれないと、オルキヌスの顔をチラリと見上げた。
「ん? 何だ?」
この角度から見るオルキヌスは、勇ましくて男の色気が溢れている。
ついドキドキしながら、オルキヌスをじっと見つめてしまった。
「アレの準備って、このことだったのですね」
「ああ……まぁそうだ」
少し照れている目元も、カッコつけた表情も、見ているだけで胸がいっぱいになってしまった。
登りになって馬の速度が落ちたところで、少し体を上げたルキオラは、オルキヌスの頬にちゅっと口付けた。
「ありがとう、大好き」
経験豊富なオルキヌスからしたら、子猫に舐められたくらいのものかもしれない。
けれど、溢れる愛しさを伝えたくて、ルキオラが今できる精一杯の愛情を表現した。
ルキオラは大冒険したくらいの心臓の高鳴りで、急いで前を向いて体を縮こませた。
オルキヌスは無反応に見えたが、しばらくしたらルキオラの頭に顎を乗せてきた。
「長い……」
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