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エピローグ後編 初めまして(リッテンタイン)
肌に触れる風は、ほんのり暖かくて優しく感じた。
薄着でも一日過ごせるような気候なのに、じめじめして蒸し暑いわけではない。
過ごしやすい気候に、ルキオラは一気にリッテンタインのことが好きになった。
気候もいいが、建物も素晴らしい。
城下町は等間隔に建てられた家々が連なって、道路はきちんと整備させていた。
街道は商人達が乗った、たくさんの荷馬車で溢れていたが、入る道と出る道が区切られていたので、待たされることなく王都に入ることができた。
ルキオラは馬上から、キョロキョロと辺りを見回して、何を見ても声を上げて驚いてしまった。
その中でも、身を乗り出して見てしまったのは、町の中心にあり、高台に聳え立っている王城だ。
芸術的なカーブや直線にこだわって建てられた王城の建築は、何時間でも見ていられるほど素晴らしかった。
初めて見る外国の景色に、ルキオラは大興奮だった。オルキヌスは、そんなルキオラの姿を楽しそうに見ていた。
帝国とリッテンタイン国の国境まで辿り着いたルキオラ達は、予想していた混乱もなく、無事国境を越えることができた。
帝国側の兵の姿はなく、リッテンタインの兵士に話を聞いた。
彼らによると、リッテンタインの軍隊は進軍したが、帝国の抵抗がほとんどなかったことで、すでに目標としていた地域を奪還したらしい。
今は事態がだいぶ落ち着いて、自国の兵の配置も完了して、帝国の動きを見ているところのようだ。
本来なら、国境を守るはずの辺境伯が兵を引いていることから、帝国内の混乱がよく分かる。
貴族達は誰に付くのか、誰の指示に従うのか、決めかねている状態なのかもしれないと思った。
風が過ぎ去ったような静かな国境を抜けて、一行はそのまま王のいる都を目指した。
まずは王に会って、帝国で何が起きたのかを説明しなければいけない。
オルキヌスにとっては久々の兄弟の再会となるわけで、何でもない顔をしているが、時々吐く大きな息から、緊張が伝わってきた。
走り続けて一週間ほどで、王都の門をくぐり、城下町に入った。
ウルガとゴングルとジェントは、先に用があると言って城には入らずに、それぞれ目的の場所に向かった。
ルキオラはオルキヌスと共に入城したが、中に入るとすぐに、オルキヌスと分かれることになり、滞在客用の部屋に案内された。
使用人達からは、長旅の疲れを癒してくださいと言われて、湯や食事の用意をしてもらえた。
体もほとんど洗えずに、砂埃だらけだったので、ルキオラは喜んで湯を使わせてもらった。
部屋に用意してもらった食事を食べてから、のんびりしていたら、ウルガがやってきた。
神官見習いの長衣ではなく、親衛隊の青い軍服を着たウルガに、思わずカッコいい! と声をかけてしまった。
「ありがとうございます。この格好だと慣れないですね」
「こうやって見ると、本当に騎士だったんだね。国王陛下の側近だと聞いたけど……」
「ええ、戦争で両親を亡くし、飢えて倒れていた私を助けてくれたのが、ルーファス様です。外からは醜王などと呼ばれていますが、心の優しい方です」
「醜王……それは、火事の傷痕のことで……?」
「はい、顔の半分と腕から手にかけては火傷の痕が、片足は失っていて、杖をついて自力で歩行されています。積極的に公務を行えないことや、今回のような帝国の混乱時に、強気に攻めに出ないことを批判する勢力も多く、対応に苦慮されています」
王国への道中、オルキヌスとウルガは言い合いになった。
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