エピローグ後編  初めまして(リッテンタイン)

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 それは、オルキヌスに側で一緒に国を守って欲しいという王に対して、オルキヌスは側にいては逆に王に迷惑がかかるという、考えの行き違いだった。 「オルキヌスを推す勢力があるみたいだね?」 「ええ、オルキヌス様は才能溢れる方ですから、醜王よりは王に相応しいと支持する者達がいます。そういった争いを嫌ってオルキヌス様が国から距離を取られる気持ちも分かるのです。王子ご兄弟はまだ幼いので、何かあった時にと……」  若くして王になった兄ルーファス、政治には熱心で良き王を目指しているが、醜王と呼ばれる容姿と、元々の優しい性格が、武を尊ぶ国の伝統からすると、弱腰だと評価されることが多いとウルガは説明してくれた。 「兄弟の仲は? ウルガから見て、二人の関係は良い方なの?」 「そうですね。ルーファス様はオルキヌス様のことをとても大切に思っていらっしゃいます。オルキヌス様ももちろん、そうだと感じますが、オルキヌス様は火事のことを自分の責任だと思っていて、ルーファス様の姿を見るたびに、辛そうな顔を……、それを見てルーファス様も深く言えないという雰囲気で……」 「思い合っているけれど、傷つけたくなくて、お互い遠慮している状態、というところかな?」 「そうですね。その感じが近いかもしれません」  オルキヌスが話してくれたことと、ウルガの話を聞いて、二人の関係が少しずつ見えてきた。  拗れてしまったものは根深くて、とても簡単には治せそうにないけれど、ルキオラには思うところがあった。  きっと二人の関係が上手くいくことを望んでいる人がいる。  王に会えたら、そのことを伝えたいと思っていた。  夕闇の頃、いよいよ国王と謁見することになった。  ルキオラに用意されたのは、王国の男子が好んで着ると言われている軽装だった。  簡単なシャツとパンツに見えたが、肌に通した時に上質な布を使っているのはすぐに分かった。  一方、ルキオラを迎えにきたオルキヌスは、帝国で着ていたのとあまり変わらない黒い軍服だったので、少しがっかりしてしまった。  宝石の散りばめられたマントでも羽織ってくるかと思ったと言うと、勘弁してくれと言われて頭を撫でられた。  王の間に向かう途中で、ウルガとゴングル、ジェントも加わって、全員で部屋に入り片膝をついて座った。  王の間に明かりが灯されて、カツカツと高い音が響いた。  ほどなくしてオルキヌスの兄であるルーファス、リッテンタイン国王ブランハム十世が姿を現した。  ルーファスは、杖をつきながら歩いてきて、王妃が横から支えていた。  初めて見る者はみんな驚くと言われていたが、その通り、ルキオラも一瞬言葉を失った。  皇帝のように仮面をつけているわけではなく、ルーファスは顔の傷を、そのまま隠すことなく晒していた。  顔半分は赤く爛れていて、年月が経った古傷だとは分かるが、痛々しく見えて、直視することができなかった。  衣服で隠れてはいるが、半身も同じように痕があると聞いていた。  緊張を追い出すように息を吐いたルキオラは、ルーファスに向かってしっかりと顔を上げた。  ルーファスは傷痕こそあるものの、オルキヌスによく似ていた。  厳つくて鋭い目つきのオルキヌスとは違い、柔らかくて優しそうな目をしていた。 「久しいな、オルキヌス。手紙ひとつ寄越すこともなく、あれほど反対した帝国に向かうなど……どれほど心配したことか……」 「ご無沙汰しております。陛下におかれましては、お元気そうでなりよりです」 「オルキヌス……私は……」
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