序章 英雄の子

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 そして今から十九年前、英雄下ろしの儀式が執り行われ、新しい英雄様が誕生した。  百年に一度、脈々と受け継がれ行われてきた儀式。  英雄様の魂を宿した子は、額に魂の形を模したという紋章が刻まれて誕生する。  英雄下ろしの儀式がいつ行われるか、それは公表されないため、生まれた子に印があった場合、必ず神殿に届けなくてはいけない。  儀式が行われた後、神殿に急ぎ向かう馬車があった。  馬車が到着すると、中から現れた者の手には、額に印がついた生まれたばかりの子が抱かれていた。  百年に一度、繰り返されるこの光景。  神官達が膝を地面につけて、祈りを捧げながら英雄の子の誕生に喜びの声を上げる。  しかし、この年は違った。  そこにもう一人、子を抱いて駆け込んできた者がいたのだ。  そしてその子の額にも、魂の紋章が刻まれていた。  今まで一度として、英雄様が二人生まれたことはない。  二人の英雄様の誕生に、辺りは静まり返った後、混乱と動揺が広がり騒然となった。  そこに現れたのが神殿長だった。  神殿の最高位として君臨する彼は、二人の子を見比べた後、これは不幸な偶然によって魂が分かれてしまったのだと告げた。  おそらく成人になり、完全体となる頃には本来受け継ぐはずだった子の方に、全て力が戻るだろうと。  だからそれまで、二人は手厚く保護して、どちらが選ばれてもいいように、英雄様として育てるとした。  こうして、歴史上、初めて二人の英雄様が誕生した。  真っ白な支柱で造られた神殿の門を抜けて、馬車はゆっくりと進んで白い石壁に囲まれた馬車回しに到着した。  いつも通り、迎えの姿はなく神殿の玄関口は静寂に包まれていた。 「おかしいですね。誰も出てこないなんて……」  今日から従者として働き始めた彼は、まだここの常識について何も聞かされていないようだ。
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