序章 英雄の子

4/4
603人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
「先の馬車がもう到着しているからだろうね」 「えっ……、ですが、ルキオラ様を待たずに下がったのですか?」  ウルガは信じられないと言う様子で首を振って外の様子を確認していたが、本当に誰一人いないので驚いていた。 「君は地方の神殿から来たばかりだったね。一週間もすれば慣れるよ」 「慣れる……というのは……?」  呆気に取られて動けない従者をいつまでも待っていられないので、ルキオラは自分でドアを開けて外に降り立った。  主人がさっさと出て行ってしまったので、ウルガはやっと気がついたのか、申し訳ございませんと、言いながら追いかけてきた。 「覚えておくといいよ。ここに英雄の子は二人いるが、本物は一人だけだ。みんな誰だか分かっているんだよ」  まるで自分が偽者だと言うように冷たく言い放った後、ルキオラはまた歩き始めた。  白鳥神殿と呼ばれる、帝都の中心に聳え立つ中央神殿。  ルキオラには白い要塞に見えて、いつ見ても胸が苦しくなってしまう。  目が覚める度に、なぜ自分が選ばれたのだろうと考えてしまう。  今は十九、成人と呼ばれる二十歳を迎えた時、全てから解放される。  そう思って生きてきたが、そうなった時、すでにいらないものとされている自分に、どのような道が残されているのか。  まるで監獄に入るような気持ちで、ルキオラは自ら神殿に足を踏み入れた。  生まれてからずっと、この神殿が自分の家で、ここの生活しか知らない。  振り返って空を見上げたルキオラは、高い空を飛んでいく鳥の姿を見て目を細めた。  ウルガが慌てた様子で走ってくる姿が見えたので、息を吐いたルキオラは、神殿の方に顔を向けてまた歩き始めた。  □□□
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!