1 二人の英雄様

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 一方、ルキオラは体が弱く幼い頃は寝てばかりいて、言葉を話すのがずっと遅かった。  やっと話し始めても、ろくに舌が回らず、舌足らずな喋りで周囲の失笑を買った。  本を読むのも時間がかかり、体を動かせば怪我ばかりする。  教師も呆れるぐらいできない子であった。  同じ立場の子が二人いれば、比べられるのは当然だ。  めきめきと輝くように成長していくヘルトの横で、いつまで経っても芽が出ず地面に這いつくばっているルキオラは、間違えた子、偽者だと呼ばれるようになった。  やがて、英雄の力が発現すると、それは火を見るより明らかになった。  戦場で何日も戦い続けられるような体力と、戦闘能力、重病人もたちまち回復させてしまう治癒力、その全てをヘルトは使えるようになった。  一方、ルキオラが発現したのは、わずかな傷を治すくらいの治癒力のみだった。  十歳を過ぎた頃になると、力の差は歴然となり、ルキオラを支持しようなどという者は誰もいなくなった。  神官達が尊敬の目で見て崇拝する英雄様は、ヘルト。  一人ずつ、自分の側から人が離れていき、ひとりになったルキオラは、早く解放されたいと思うようになった。  自分が英雄様でないことは明らかだ。  なぜしがみつくように力が消えずに残っているのか、虚しくて寂しい日々に、心は冷たく凍りついてしまいそうだった。  神殿の廊下を歩きながら、ルキオラはゲホゲホと咳き込んでしまった。  暖かくなってきたが、まだ朝晩の冷え込みがあって、寒気がするのでどうやら風邪をひいてしまったらしい。 「ルキオラ様、大丈夫ですか?」 「大丈夫。部屋に戻って少し休むから」  後ろを付いて歩くウルガが声をかけてきたが、ルキオラは大丈夫だと言って歩き続けた。  こんなところで従者に支えられて歩いたりでもしたら、また仮病か、病弱な英雄様だと笑われてしまう。  気丈に振る舞ってでも歩かなければ、ここではまともに生活できないのだ。  ただでさえ支給される服は、薄い布を重ねて纏うもので、体の弱いルキオラには寒さを感じるものだった。
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