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一方、ルキオラは体が弱く幼い頃は寝てばかりいて、言葉を話すのがずっと遅かった。
やっと話し始めても、ろくに舌が回らず、舌足らずな喋りで周囲の失笑を買った。
本を読むのも時間がかかり、体を動かせば怪我ばかりする。
教師も呆れるぐらいできない子であった。
同じ立場の子が二人いれば、比べられるのは当然だ。
めきめきと輝くように成長していくヘルトの横で、いつまで経っても芽が出ず地面に這いつくばっているルキオラは、間違えた子、偽者だと呼ばれるようになった。
やがて、英雄の力が発現すると、それは火を見るより明らかになった。
戦場で何日も戦い続けられるような体力と、戦闘能力、重病人もたちまち回復させてしまう治癒力、その全てをヘルトは使えるようになった。
一方、ルキオラが発現したのは、わずかな傷を治すくらいの治癒力のみだった。
十歳を過ぎた頃になると、力の差は歴然となり、ルキオラを支持しようなどという者は誰もいなくなった。
神官達が尊敬の目で見て崇拝する英雄様は、ヘルト。
一人ずつ、自分の側から人が離れていき、ひとりになったルキオラは、早く解放されたいと思うようになった。
自分が英雄様でないことは明らかだ。
なぜしがみつくように力が消えずに残っているのか、虚しくて寂しい日々に、心は冷たく凍りついてしまいそうだった。
神殿の廊下を歩きながら、ルキオラはゲホゲホと咳き込んでしまった。
暖かくなってきたが、まだ朝晩の冷え込みがあって、寒気がするのでどうやら風邪をひいてしまったらしい。
「ルキオラ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫。部屋に戻って少し休むから」
後ろを付いて歩くウルガが声をかけてきたが、ルキオラは大丈夫だと言って歩き続けた。
こんなところで従者に支えられて歩いたりでもしたら、また仮病か、病弱な英雄様だと笑われてしまう。
気丈に振る舞ってでも歩かなければ、ここではまともに生活できないのだ。
ただでさえ支給される服は、薄い布を重ねて纏うもので、体の弱いルキオラには寒さを感じるものだった。
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